先日、「美容整形外科で手術ミス？」という記事が一斉に配信され、テレビ報道もされました。今回はその報道姿勢と司法解剖の情報開示について語ります。いくつかの記事を元に報道の姿勢を問い質したいと思います。
　ちなみにこのニュースはフジテレビ朝の情報番組「とくダネ！」でもとりあげられました。その時、事前打ち合わせでスタッフの方に三分ほど、説明したところ、問題の本質をあっという間に理解され、番組に反映してくれました。
　私が申し上げたのは、以下のようなことです。
「脂肪吸引で内臓を傷つけていたなら手術ミスでアウト。内臓が傷ついていなければ、基本的には帰宅後なので病院を責めるのは酷。そのことは、司法解剖されていればわかるはず。しかし報道記事を読むと、そこの部分が曖昧に報道されている。これは司法解剖をベースにした死因究明制度が社会に対し死因説明するという基本を怠ってきたために起こった事態で、死因不明社会が捜査の情報閉鎖性によって引き起こされ、医療現場と市民社会に不当な不安を煽る要因になっているという典型例です」
　たったこれだけの説明で、とくダネ！のスタッフは状況を理解し、事件報道の中身がずいぶん変わりました。
　さて、ふたつの新聞報道に批判を加えていきます。なお個人情報は不必要ですので、そうした部分を削りましたが、それ以外は記事のままです。

品川美容外科　異常の訴え　受診促さず
2009年12月12日 東京新聞朝刊
　品川美容外科池袋院（東京都豊島区）で脂肪吸引手術を受けたＭさん（７０）が二日後に死亡した事故で、Ｍさんが手術翌日に異常を訴えた際、同院は処方した薬のうち一種類の服用をやめるよう指示しただけだったことが、遺族への取材で分かった。司法解剖でＭさんの腸に傷が見つかっており、警視庁捜査一課は手術ミスや術後管理に不備があった可能性があるとみて、業務上過失致死の疑いで執刀医や院長らの事情聴取を進めている。

　○　腸に傷があったということですが、この部分は、まさしく司法解剖が「確定」できる部分で、なぜこのような曖昧な記載なのかさっぱりわかりません。解剖をすれば、腸の傷が脂肪吸引によるものかどうか確定できるはず。腹壁に傷があるかどうか、確認をすればいいのですから。その確認が行われていなければ、たとえば解剖時に腸管を傷つけた可能性もあります。メディアもこうした部分を捜査本部に問い質さず、発表を垂れ流しにしたのかもしれません。これでは報道被害はひどくなる一方です。司法解剖をした法医学者が、腸管の傷は手術手技のミスにより生じたと断定していれば、こうした曖昧さは消失するはずです。

　Ｍさんの長男（５０）らによると、前田さんは手術翌日の今月三日、池袋院に「黒い物を吐いた。腹痛がする」と電話で相談。同院は一種類の薬をのまないように指示したが、受診を促すような話はなかった。Ｍさんは指示に従い、事前に受診を予約していた五日まで我慢するつもりだったが、四日午後七時前、次男（３９）が帰宅すると、リビングでうつぶせに倒れ、死亡していた。

　○　黒い物を吐いて腹痛がするのであれば、指示がなくても、どこかの医院にかかるべきです。それは自分の身を守る基本です。手術と関係してもしなくても、そうすべきでしょう。なぜなら病院も医師も完璧な存在ではないからです。これを責めるのは、ちと過剰な"医療叩き"ではないでしょうか。

　　美容外科に詳しい専門家によると、黒い吐しゃ物は胃より下側の臓器からの出血の可能性が高いという。また別の専門家によると、高齢の場合は合併症の恐れがある上に、持病の薬をすべて把握する必要もあり、脂肪吸引手術の実施例が少ないという。品川美容外科はホームページに「患者さまがお亡くなりになられたことは、誠に遺憾です。当院としても独自に調査を進めていますが、現時点では、通常通りの手術を行ったものと判断しています」とのコメントを掲載した。

　○　"当院としても独自に調査を進めています"というひとことに、現在の死因究明制度の問題点が浮き彫りになっています。亡くなった方も、医療施設も双方ともお気の毒です。司法解剖情報は捜査情報と称されて、医療現場にも遺族にも公開されません。医療現場としては何が行ったのか知らされないまま、一方的に社会批判にさらされます。これは捜査システムの不備がもたらす風評被害につながります。医療側から司法解剖情報呈示に関して改善を要求すべきです。よく法医学者はパロマ事件で解剖をしていたから問題が明らかになったと主張しますが、傍らで、遺族が東京都監察医務院に死因を尋ねても「遺族に死因を教える義務はない」と断ってもいるのです。