海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

『海堂ニュース』最新ネタ満載!

2009.12.11 2009:12:11:21:13:26

モデル事業は完全に崩壊した。

名古屋市は、上述のとおり、日本では東京に次いで、死因究明制度では厚遇されている特別区です。監察医制度はあるわ、医師会による剖検システムはあるわ、モデル事業指定都市にはなっているわ。にもかかわらず、その地域でさえこのていたらくです。どうしてこんなことになってしまったのでしょう。それは死因究明制度において、適用率2%台という解剖を土台に据えたシステム構築をしているからです。そもそもシンプルな疑問で、適用率がたった2%台のシステムを、すべての土台に据えることができるものでしょうか?
 名古屋市のこの症例をもって、現在の解剖システムは、遺族の要求に答えることができない制度だ、という側面があることを露呈してしまったのです。
 フジテレビ・スーパーニュースの報道はすぐれたもので、多くの方に強い印象を与えたと思います。残念な点をひとつあげれば、解剖制度によって問題が解決できなかったのに、コメントを求めた人たちが、東京都監察医務院の院長や東京大学法医学教室の方のコメントだった点です。法医学はこうした問題は解決できないと何度言っても、メディアはなかなか理解しません。問題は解剖されなかったことなんですから。もっとも現場のディレクターはそのあたりをよく理解していて、死亡時画像診断(Ai)に関しては千葉大Aiセンターの山本正二副センター長に取材していたので、ようやく「画像のことは放射線科医に聞け」という医療界の常識が、ようやくメディアに浸透したな、と感慨深いものがありました。
 そう、Ai (なぜか法医学者や病理医はやたらと別の用語である死後画像という言葉を使うことに固執し続けていますが・笑)のことは、放射線科医に聞かないとダメです。画像診断とは、車の運転に似ています。法医学者は医師免許を持っているので、確かに車の運転をしても違法ではありませんが、画像診断に関してはペーパードライバー。勉強も練習もしなければ、危険走行になってしまうのです。
 もし今後、Aiや死後画像に関し、法医学者に聞きに行くような報道がされたら、それは勉強不足のメディアであり、報道にたずさわる資格に欠けるといわれても仕方がない、という結論にならざるをえないでしょう。

 この症例では、医療事故問題のためのモデル事業の枠組みがまったく機能しませんでした。モデル事業は発足してから五年が経ちますが、現実の事案にまったく対応できなかったわけで、これこそこのモデル事業が失敗した、という評価を裏づけるものでしょう。
 テレビでコメントしていたのは、遺族代理人の加藤良夫弁護士でしたが、この方は、死因究明制度問題の厚生労働省の会議の一員です。ですから、モデル事業の存在も熟知していたはずですが、どうしてこの案件をモデル事業に相談しようという気にならなかったのでしょう。
 そして医療事故被害者の会の方たちもこの事件は把握していませんでした。厚生労働省中国四国厚生局が主催した医療安全セミナーで先日講演させていただいたのですが、その席でご一緒した永井代表に直接伺ったので確かです。
 問題は、この症例が医療事故でなければ、医療事故被害者の会の方たちは何も対応できないという点です。会の趣旨からすれば当然ですが、やはりそれでは困った人たちを何とかしてあげようという社会改善という観点からみたら、あまりに範囲の狭い活動だと思われてしまう。残念なことです。
 これもすべて、解剖を土台にしたシステム作りに固執し続けた、厚生労働省と関連学会上層部の、固定観念によるシステムエラーが原因なのです。
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