海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2009.11.30 2009:11:30:15:18:30

空疎だった「医療安全推進週間シンポジウム(厚生労働省主催)」

 11月28日、ベルサール飯田橋で開催された「医療安全推進週間シンポジウム」を傍聴してきました。コーディネーターは稲葉一人氏、パネリストは加部一彦氏(愛育病院新生児科部長)、木ノ元直樹氏(木ノ元総合法律事務所弁護士)、鈴木利廣氏(すずかけ法律事務所弁護士)、瀬尾憲正氏(自治医科大学麻酔科学・集中治療医学講座教授)、高本眞一氏(三井記念病院院長)、堤晴彦氏(埼玉医科大高度救命救急センター長)、永井弘之氏(医療の良心を守る市民の会代表)、埴岡健一氏(日本医療政策機構理事)の8名でした。
 傍聴した感想は、厚生労働省が、自民党と一緒になって提出を準備していた「医療安全法案大綱」を継続したい、という意図がそこここに見え隠れした集会となりました。

 最初に「国民の目から見た医療安全」という、厚生労働省主催のアンケート調査結果が発表されました。このアンケートは、厚生労働省が音頭をとって、10月15日~11月8日の25日間行い、チラシを9000枚も配布し、読売新聞や専用サイト、メールニュースなどを使って集めたものです。しかし結果として、木ノ元直樹氏も指摘していましたが、母数がわずか664件、また、回答地域も首都圏に大半の回答例が集中しているなど、統計情報としてはまことに淋しいもので、少なくとも「国民の目から見た」という形容詞は不適切な内容でした。残念ですね。これが官僚お得意の、もっともらしい統計を使った世論誘導で、やがてはこのパーセントの数字だけを一人歩きさせ、「中立的第三者機関を望んでいるのは国民の97パーセント」などと使い、自らの行政意図をあたかも国民の意図であるかのように言うのでしょう。
 このアンケートで確実に言えることはむしろ堤晴彦氏がおっしゃっていた、たった664件しか回答がなかったということを、医療安全の問題に対する国民の関心の低さと捉える、これだけしか言えないアンケート調査だったといえましょう。患者遺族団体は、こうしたアンケートに積極的に答えるでしょうから、関係者以外の意識はさらに低いと判断するのが妥当でしょう。

  講演会で発表されていた方々の話は、私も過去に幾度か聞いたことがあるものばかりでした。今回の発表で、比較的新しい情報を盛り込んでいたのは木ノ元直樹氏と堤晴彦氏のおふたりのように感じました。あとは、ほぼ一年以上前からあちこちで主張されていることの繰り返しのようでした。つまりこの問題は一年前から議論が滞っている、というのが現状だと認識しました。
 興味深かったのは遺族代表の永井弘之氏の発言で、「昨年、福田首相が政権を投げ出さなければ、この法案が審議入りしたはず。民主党はこうした会合に顔を出すべきだ」という主張です。厚生労働省や遺族会は実に現金なものですね。このシンポジウムでは大綱案を一緒に作った自民党の議員の方たちには一顧だにされず、民主党が無関心なのはおかしいではないか、の一点張りなんですから。遺族会のために尽力された自民党の議員さんたちは、さぞやがっかりされていることでしょう。まったくもってお気の毒です。
 大綱案提案の経緯を当時、端から見ていた私の目には、中立的な検討会で検討されていた事項が、ある日突然、まったく別のところで作られた自民党案を厚生労働省が検討会に呈示する、という形で始まったのをよく覚えています。そして民主党は当時その大綱案に反対していました。つまり厚生労働省や遺族会代表の方たちは、自民党案としてこうした枠組みを支持されたのですから、それをあたかも中立的な提案だから民主党はそれに乗るべきだということは、少々甘えている気がします。それは取りも直さず、自民党が構築した大綱案にはいささか不備があり、そのため関係者からの合意が得られず、また別の案として民主党案もあったにもかかわらず自民党案を支持したということで、政権交代でそれらが白紙になった、ということにすぎません。
 つまりこの大綱案を支持したのは国民ではなく、正確には「厚生労働省、モデル事業に参加した関連学会上層部の方たち、そして遺族会」なのです。そう、ちょうど冒頭の国民調査アンケートがたった664名の国民しかいなかったようなものです。その三者は強い結束を持ってコトに当たっています。
 民主党は今後、白紙で医療安全に関する問題を練り直していくでしょう。永井弘之氏の「小さく産んで大きく育てる」という主張は、硬直しがちな日本のシステムにおいては往々にして、「小さく産んだシステムに固執し、いいものを作るのを阻害してしまう」という禍根を残すことになる。
 医療安全に関する問題は、非常に大切な問題です。まだ議論が尽くされていると思えないので、政権交代があった今、モデル事業を含めた従来のやり方全体を、一度レビューする必要があるでしょう。
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