海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2009.11.04 2009:11:04:15:19:27

押尾学事件は第二の時津風部屋事件だ。

 ちなみに、今回の押尾学事件から類推して、医療安全に関しはっきりしたことがあります。それは以下の2つの原則にまとめられます。
1)医療事故調査委員会は、従来の司法の枠組みでは構築できない。
2)医療事故調査委員会は、解剖ベースでは構築できない。
 1)の理由は単純です。医療事故に会った遺族の一番の願いは、「何が起こったか、真実を知りたい」というものです。ところが捜査に入ると、今回の押尾学事件のように、一番の基本である死因すら知ることができなくなる。だから遺族の願いを叶えるというのが第一義であれば、医療事故のファースト・ステップは刑事捜査で行ってはならない、という結論になります。
 2)は、もし解剖ベースにした場合、犯罪を疑っていれば警察は有無も言わさず司法解剖してしまいます。それは前回のブログの事件からも明確です。つまりたとえ医療事故調査委員会を作っても、警察が疑えばいつでも捜査対象になりうるのです。そうなった場合、解剖適用が問題視されるので、行政解剖が途中で司法解剖に切り替えられたりしてしまうように、結局司法に都合のいいシステムを構築させられてしまうでしょう。だから医療事故調査委員会は「解剖ベースでは構築できない」のです。
 ではどうすればいいのか。もうおわかりですね。「Aiベースで構築すればいい」のです。
 かくして解剖ベースの医療事故調査委員会の制度設計を目論んだ「モデル事業」は、論理的に完全崩壊したのです。
 医療安全調査委員会は、患者に一方的に利益供与する仕組みであってはなりません。問題を指摘する機能も大切ですが、同時に、問題がなかった場合に納得してもらうという、患者と医療従事者にとって互恵的なシステムとして機能させなければ、現場には根付かないでしょう。そしてそれは、解剖ベースでは、絶対にできない仕組みです。でもAiセンターであれば、それが簡単にできるのです。
 具体的にAiセンターベースになった場合の、現場対応を見てみましょう。
「問題が起こったらAiを撮像し遺族に説明する。医療事故だとわかればそこで謝罪する。(これが遺族の望む最速の謝罪になります。またそこで対話が成立しますので、そうしなかった場合よりも和解はスムースでしょう)。医療事故でなければ遺族は納得する。遺族が納得しなければ中立的第三者機関を召集し、議論後に遺族に説明する。それでも納得してもらえない場合、あるいはAiで死因がわからなかった場合は、しかるべき解剖システムに回す手続きをとる」
 以上です。Aiセンターがあればこれが一日で対応できます。注目すべきは、ここでは解剖は「Aiセンター付属の医療安全調査委員会」の最終検査になりますが、適応前に問題の枠組みが解決してしまう点です。だから判断基準点を解剖におかずにすみ、迅速性が確保される、というわけです。
 モデル事業が従来通り解剖ベースであれば、それは市民と医療現場の人間の両方を傷つけるシステムになってしまう可能性がある。しかしAiベースであれば、透明性と迅速性の高い、患者と医療従事者双方に利益をもたらす新しいシステムができます。
 間違えた時は勇気ある撤退も大切です。旧厚生労働省が選択したモデル事業は骨格的に間違いだったと認めないと、百年の禍根を医療現場、ひいては市民社会に残すでしょう。まあ、学会上層部がこぞって参加したモデル事業なので、そうした方々の面子があるのでしょうけれど。でもそれが市民にとって害悪になりかねないという、この指摘が適切であれば、面子くらい忘れていただくのが最良です。
 官僚や学会上層部の方々も、みんな人間です。たまには間違える時もあるでしょう。無謬など、絶対にありえない幻想なのです
。 なぜ、娘の死因を教えてもらえないのか、という押尾事件で死亡した女性の両親の悲痛な叫びに、Ai センターを創設すれば、こうした理不尽な問題は解消します、とお伝えしてあげたいと、みなさんは思いませんか? あるいは、真面目に医療に従事している現場医師が不当逮捕や捜査を受けることから解放されるためには、Aiセンターが有効だということに同意していただけませんか?


以上

2009.10.25  海堂尊
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