海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2009.10.19 2009:10:19:15:21:51

「司法過誤」をAiセンターが食い止めた実例

 そこでご遺族はAiの有効性を説き、まずAiを施行し専門家の判断を仰ぎ、事件が疑われる場合は伝えるので結果を待ってほしいと伝えました。さらに司法解剖の根拠を出すよう要請し、ステントの失敗は4日たってからは可能性がほとんどないので闇雲な解剖は避けてもらいたい旨を伝えたそうです。
 検視では腹の探り合いです。警察は行政解剖区分の予算調達は無理と承知していたので検事に連絡し検察予算で司法解剖することを通告、家族承諾は必要ないと主張しましたが、解剖制度を熟知していた遺族は、この対応がすでに基本ルールから外れていると抗議しました。検視は続行されましたが、もちろん体表検索では何もわかりません。遺族は検死官や刑事の話から、すでに所轄に事件本部がおかれていることに勘づいたそうです。この時点で死者の妻と相談したところ、解剖には絶対反対だったので、Aiの有効性について一時間、捜査一課刑事と検視官にレクチャーを行なったそうです。その結果、以下の内容で合意になりました。
1.検査結果はデータとともに県警に提出する
2.客観性のある第三者に読影依頼する(病院の読影はだめ)
3.一次読影結果を報告する
4.正式な読影は後日お願いし、問題があれば司法解剖に同意する

※ 警察が事件性を疑った場合、司法解剖になったらすべての情報は捜査情報の下、隠匿されます。また、医療安全調査委員会への適応は、県警は一切考慮していません。解剖を主体としたモデル事業では、警察が意思を決定してしまえばモデル事業など吹き飛んでしまうということでしょう。
  本件では遺族にAiを行なうという意思があり、かつ、読影を第三者機関で行なえるシステムがあったことが、「不当捜査」から医療現場を守ったのです。 Ai にも強制力を持って提出を要求するのは、すでに捜査段階に入っていた傍証でしょう。このケースではAiセンターという、医療現場が自主的かつ中立的に対応できるシステムが構築されていたことが、医療と市民の意思を守るために役立ったといえます。Aiセンターは医療にとって、そして市民にとっても、司法から身を守るための最終ディフェンスラインになるのです。実際に千葉大Ai センターの存在が、遠く離れた他県の医療施設に対し適用されそうになった司法過誤を防いだのだという見方もできます。

 警察が帰った後、9時に病院到着。夜間救急入口にいくと警備、事務方に話が通っており救急搬送のようにスムーズにAiは受け入れられたそうです。看護師さんが入口に待機しており、4人態勢で遺体をストレッチャーでCT室まで搬送。他の患者の前を堂々とER室内部を通って行きました。遺族はCT室前で待たされましたが、看護師が一人つき遺族のケアを行なってくれました。CT室では技師から撮影方法の質問攻めにあったため、Aiセンターの山本先生と電話でプロトコルの指示を直接してもらいました。関係者は全員Aiという言葉を完全に理解しており、撮影はスムーズだったそうです。

※Aiという言葉と概念は、医療現場ではいまや全国区の認知度になり、医療現場に根付いたということが言えるでしょう。Aiセンターの必要性は医療の最前線で日夜働いていらっしゃる医療従事者には、説明の余地がないくらい明らかです。

 30分後に撮影終了。データをCDに焼き、山本先生に経緯を報告し一次読影を行ないつつファイル転送。ビューアーでステント先にフリーエアーらしきものがあり冠状動脈がトレースでき、施術ミスかと思ったが3次元再構成し動脈を抜き出したところ出血の証拠はなく、形状的に問題がなさそうとのことでした。
 以上で深夜作業を終え、県警本部と検死官に報告したところ、こうした情報はあくまでも参考意見で医学的所見でないという点を指摘され、翌昼までに第三者による診断をせよと厳命されたそうです。

※ 第三者に読影し客観的な医学情報を、という県警本部の判断は、ある意味できわめて妥当です。その意味で県警から「2.客観性のある第三者に読影依頼する(病院の読影はだめ)」が要望されたのは非常に興味深い話です。たとえば現在法医学主導で展開しているAiセンターはいくつかありますが、そこの問題点は、読影システムが確立されておらず、Ai撮影が単に「遺影撮影」に成り下がっているように思える点です。いつも例に挙げますが、千葉大学に今年3月遺体専用のCT機が導入されました。そしてすでに法医関連の検体が数例(数十例?)撮影されているという話も伝わってきているのですが、千葉大Aiセンターの山本副センター長への読影依頼は10月1日の時点でまだ一例もないそうです。(あるいは、4月に専用CTを設置しながら、まだ一例も施行していないのかもしれませんが、そのどちらかです)。他県から診断コンサルトを受けるのに、足下の法医学教室からの診断コンサルトは一件もなく、そこでは法医学主導のAi 撮影だけがされているのだとしたら、これでは県警が医療現場に要求する基本的な要望に答えていないシステムだということになりかねません。そう考えると、法医学教室が主導するAiシステムが、読影の客観性と中立性についてまったく検討せず、単に画像を撮影すればいいというだけで放置されていることになります。これでは警察はAiに関して、身内である法医学の人たちに対しては非常に優しく、外部の医療従事者には大変厳しいという、ダブルスタンダードを適用している、と言えるのではないでしょうか。

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