海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2009.10.19 2009:10:19:15:21:51

「司法過誤」をAiセンターが食い止めた実例

 葬儀屋は、霊柩車があいている時間なら遺体搬送も問題なしと二つ返事で、Aiのための逆ルート(自宅から病院、病院から自宅への往復)も、突然死なら検査を病院でやって当然という回答でした。その結果、通夜の9時頃Aiを施行するという予定になったそうです。
 こうしたことが決まった後、当初予定より遅れ18時に検視官と県警本部刑事の6名が自宅に来ました。ネームタグは検死官以外は捜査1課の刑事でした。車は遺体の運送可能なバンで、医療過誤に対し行政解剖の承諾を得るために来たのではという推察を強くしたご遺族は「Aiをするので検視は8時までに終わらせてほしい」と伝えました。ちなみに検死官はAiという言葉は知っていたそうです。緊迫したやり取りは以下の通りです。
遺族「これから遺族の意思で市民病院で9時からAiを行うことを決めましたので、検視は8時半までに終了していただけますか?」
検死官(絶句!)
ご遺族「なにか問題がありますか?」
検死官「いえ、いまこちらの費用でCT撮影を依頼できる所を探していたのですが......」(目が泳いでいる)
ご遺族「ということは事件性があるとの判断ですか?」
検死官「正直に申しまして、解剖の承諾を取りに参りました」
ご遺族(でもこの県で行政解剖する予算は年2、3体だった気が......)「承諾ということは行政解剖ですか?」
検死官「警察が介入していますので司法解剖になります」
ご遺族「は? なんの事件ですか?」
検死官「それを調べるために再度検視を行いたいと申し上げています」
ご遺族「なるほど。では検視を行なってください」
検死官「検視の現場は心情的につらいものがあるかと思いますので、ご家族の方は別室でお待ちください」
ご遺族「平気なので立ち会います」
検死官「え!」
ご遺族「全く問題ありません。なんなら手伝います」
検死官「........................わかりました」

 ※ 警察主導のAi が行なわれれば、そのAi情報は捜査情報ということで医療現場や遺族には公開されなくなったでしょう。仮に読影診断能がない法医学者が読影し、半端な診断をすればとんちんかんな診断をされかねません。医療従事者としてはとても怖い話です。
 だからこそ「Aiは医療現場のエンドポイントに置き、医療従事者が診断する。ただしその費用は医療費外からの拠出を求める」というAiプリンシパルが重要になってくるのです。

 検視とはいえ、2度目の目視でいったい何をやるのか? 解剖承諾の前振りと推測していたので、ここから本音トークになったそうです。検死官の説明では「すでに検事に連絡済みで、医療過誤として立件するため、行政解剖ではなく司法解剖の内諾を得ている。術後4日の急死は非常に疑わしく外因死である可能性が高い。大学法医学教室で司法解剖を強制的に行なう意思があるが、家族感情を考慮に入れ承諾解剖という形をとりたい」とのことでした。すでに市民病院の主治医、新生病院の嘱託医、さらには亡くなった方の職場でも事情徴収を行なったそうで、診療記録もすでに押収した旨も告げられたそうです。

※ ここで問題があります。この一件、誰が警察に告発したのでしょう。ここに書いてあるように、ご遺族は医療過誤だと認識していません。とすると、県警本部内に医療過誤と判断する人がいたのでしょうか。しかし警察立ち会いで行なわれた最初の検死では死体検案書が出され、「心筋梗塞」という診断がされています。さらに現場対応もおかしい。司法解剖なら令状を取る強制執行です。「家族感情を一応考慮に入れて承諾解剖という形をとりたい」というのはねじれた執行であり、始めに捜査ありきという意志だけは強く感じさせます。いったいどういう法体系の下、このような対応がなされたのでしょう。
 またこのケース、もし遺族が少しでも医療施設に不信感を抱いたらどうなるでしょう。このような警察対応により遺族感情がその方向に動くことは間違いありません。これは中立的、謙抑的に司法権力を用いると主張していた医療安全調査委員会設置検討委員会での警察庁の役人の発言とは符合しない、正反対の現場対応だと言えるでしょう。
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