海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

『海堂ニュース』最新ネタ満載!

2011.03.29 2011:03:29:15:22:34

なぜこの大災害時にAiは使用されないか

 さらにもう一点、興味深いこと。法医学会上層部が情報を表に出すことを制限しようとしました。Ai学会MLで被害状況をいち早く共有しようと動いた山本理事長にクレームが二件寄せられたそうですが、二件とも法医学者からだったそうです。

 

それだけではありません。上記報道の二日後、法医学会MLに理事長名で一斉メールが流されたそうです。内容の主旨は「災害時死体検案支援活動は警察庁等の依頼に基づく活動であり公務に相当する活動なので、活動を通じて得られた情報は多くの秘匿すべき内容を含んでおり、災害時死体検案支援で得られた情報について個人的に報道等で公開することは、是非とも差し控えて頂きたい」というものでした。時間経緯からすると上記の岩瀬教授の報道に対しての注意喚起のメールにも感じられます。上記記事は法医学会としての情報開示ではなく一個人としての情報提供に読めますので。でも確か岩瀬教授は法医学会広報担当理事と仄聞しております。どうなっているんでしょう、法医学会。

 

 法医学会の情報公開に対する姿勢は「捜査情報なので警察庁のお伺いを立てなければ公開できない」というスタンスです。このような激甚災害の情報まで統制しようとするのは、市民社会に対する情報提供という点で責任を果たしていないと、私は思います。

 

折しもこの大震災の影に隠れて大阪地検特捜部で行われたFD証拠捏造事件がたった二回の公判で結審しました。警察や検察が自分たちの都合のいい結果を捏造しても、これでは独立しているはずの法医学鑑定から、警察捜査の問題を指摘するのは不可能でしょう。これでは彼らは市民社会のためではなく、警察組織のために働いているという批判を受けかねません。

 

iを法医学会が主体で扱えば、その情報は市民社会に還元されず、上記の注意書きにあるように隠蔽されてしまうおそれが高いのです。市民のみなさん、ご用心。

 

 

 

身体を張って仕事をされている現場の法医学者は尊敬しています。ダメダメなのは方針を統括する学会上層部です。それは医療でも同じ構造です。どうして現場の声をきちんと汲み上げようとしないのか。思い出してほしいのが、診療関連死におけるモデル事業に費やされた税金です。六年間で五億、そして検討した症例はたった百例と少々。その検討は今回の激甚災害にはまったく転用できません。同じ金額をかけるなら、死因究明制度の土台を議論すればはるかに身のあることになったでしょう。結果的に高額な税金が非常に狭い分野に無駄に投下されてしまったのではないでしょうか。そして厚生労働省の担当部署は今年もその額を死守しようと暗躍しています。厚生労働省と、関連学会上層部の自省を強く望みます。

 

それにしても、医療現場における解剖や検案のスペシャリスト集団・病理学会が何の動きも見せないのは哀しいことです。HP上の最新情報には百周年記念式典のプログラムがアップされ、文部科学大臣、厚生労働大臣、日本学術会議会長、日本医学会会長など名だたる権威の方たちがずらりと並んでいます。ですがそこには病理学会がこの災害に対し、どういう寄与をするのか、あるいはどのように貢献すればいいのかという社会奉仕の観点が欠落しています。なんと寒々しい式典であることでしょう。これでは市民からは祝ってもらえないでしょうね。

 

 

 

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