海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2011.03.29 2011:03:29:15:22:34

なぜこの大災害時にAiは使用されないか

 

今回の東日本巨大地震では、法医学者の方たちが、歯科医と一緒に検案に当たられたとのこと。救急の医療と合わせ、とても大切なことだと思います。現場対応に当たられた先生方に敬意を表します。

 

さて、死者が四桁に達すると、死亡時検索は質が変わります。死因究明から個体同定へと主目的が変化するのです。今回の大震災ではAiの出番はなかったように思われます。しかしそれは警察がAiの真の意義を理解していなかったからに他なりません。

 

一部法医学会上層部や病理学会上層部が言う、「解剖至上主義」は大災害時には通用しません。今回、電気等のライフラインが破壊されたため、Aiは実施困難でした。しかしそれは解剖も同じ、いや、むしろ解剖の方が致命的です。

 

解剖は遺体を冷暗所に保存します。解剖室は密閉されていて電気がなければ真っ暗です。大震災の後では摘出臓器は保存困難ですし、そもそも遺体の数が多すぎて解剖での対応は不可能です。解剖は大量の水を必要とします。生存者においても水の確保が大変な中、解剖などできるはずがありません。

 

Aiはどうでしょうか。Aiは電源と検査機器さえ確保できればできます。短時間できちんとした医学情報を残せます。放医研で開発された車載式CT車は自家発電が可能ですので、モバイルで被災地に派遣できます。水はまったく使いません。

 

今回、多くのご遺体が身元不明のまま埋葬されるといいます。この時、CTを撮影できれば、後日遺体を掘り返すことなく身元照合が可能になります。撮影時間は正味一分、それで人物同定に必要な画像情報を取得できます。

 

大災害時、生存者の救出と、生きている方たちへの対応が最優先されることは間違いありません。ですが同時に発生した多数の死者への対応も必要なのは事実です。この時、日本中にAiシステムが構築されていれば、多くのご遺体の人物同定がきちんとされたことでしょう。

 

ちなみに現場での検視活動について下記の新聞報道を参照してみます。

 

 

 

○ 20113190304  読売新聞

 

東日本巨大地震で千葉大の岩瀬博太郎教授(法医学)が岩手県陸前高田市の死者126人の死因を調べたところ、9割が津波による溺死だったことがわかった(中略)。同市内で13~16日に遺体の検視にあたった岩瀬教授によると、犠牲者の9割は死亡した後に骨折したとみられることなどから、溺死と判断した。屋外で見つかった約90人のうち、4割程度が肋骨や首、手足を骨折していた。時速30~40キロ以上の車にはねられたような強い衝撃を受けており、激しい津波で流された木材や家屋、車などにぶつかったとみられるという。また、高齢者を中心に約50人がシャツや上着、ジャンパーなど7~8枚を重ね着。印鑑や保険証、写真アルバムを入れたリュック、非常食のチョコレートを持った人もいた。岩瀬教授は「逃げ遅れたのではなく、避難準備をしていたにもかかわらず、想定を超える津波に巻き込まれたのではないか」とみる。

 

☆☆☆

 

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