海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2010.11.10 2010:11:10:10:21:54

転戦、また転戦

五年間の「診療関連死における死因究明制度に資するモデル事業」通称『モデル事業』が大失敗に終わったということは述べました。しかし八月のAi検討会で提出された概算要求には、厚生労働省はモデル事業を継承するシステムに新たに一億六千万の概算要求を行っています。もしもこの予算の受け皿が「日本医療安全評価機構」なる一般財団法人だとすると、その創設は今年三月、つまりモデル事業が失敗に終わり、期間が終了する直前なのでモデル事業の結果如何にかかわらず、この事業の継続は決まっていたことになりかねない。それが確定するのは、モデル事業相当の予算が、この「日本医療安全評価機構」なる一般財団法人に支払われた場合です。これは、今後の予算の実情を見ていけば確定できるので、メディアのみなさんも是非ご注目を。もしも予算執行が決まったらその時は、「モデル事業に関わる学会上層部」と厚生労働省医療安全推進室の間には、抜き差しならない深い関係があって、それは血税たる国家予算を執行するにあたっては、国民からみたら「学会上層部と厚生労働省の構造癒着」とでも名付けるべき、不適切なものになりかねません。

聞けば、モデル事業は各地に事務所を作ってしまい、事務員の人員削減ができないから予算の継続に必死なのだとか。出来の悪いシステムでも、継続させなければ厚生労働省としては甚だ都合が悪いのかもしれません。こんな予算は、省内事業仕訳でまっさきに上げられるべきです。私はエキストラで人様より多少大目に納税していますが、納税には抵抗はないもののそのカネがこういう使われ方をしていると思うと腹立たしく、健全な納税意識まで阻害されてしまいかねません。医学界のトップ五学会上層部(日本内科学会、外科学会、病理学会、法医学会、日本医学会)が支援し続けると言うのだから、こんな調子では医療が市民の支持を失ってもむべなるかな、でしょう。

モデル事業の継承団体「日本医療安全評価機構」にこの予算がそのまま入ったら、その事実を以て私は、厚生労働省医療安全推進室と上記四学会上層部間に「不適切な関係」があったと推測します。

この予算が執行されるかどうか、納税者であるわれわれ国民は注視していく必要があります。厚生労働省は目先をごまかすためモデル事業にAiをやらせ、表面上取り繕おうとしていますが、モデル事業の母体は前回のブログに書いた通り、Ai導入は形式だけという態度です。こんな枠組みが通ったらその時は現場の医療が窒息します。モデル事業を支持する医療従事者は、現場の医療の緩やかな自死に手を貸す結果的になりますので、充分心して対応してください、とここに指摘しておきます。

「新しいことはいいことでもなかなか始めない、一度始めたものは悪しきものでも絶対止めない」という、官僚中心の悪しき仕組みが蔓延し、現在の日本社会をおかしくしています。民主党が大勝し、官僚行政も少しは変わるかと思った期待も、一年経ち冷静に見ると、また官僚の勝利のようです。残念ですが、予想できたことです。しかし官僚のみなさんに考えていただきたいのは、このままのスタイルを続けると結局日本の国力は衰退し、そのお余りで権限を強める官僚制度自体も自壊してしまいますよということです。その意味で、日本の官僚制度は老境に入ったようです。未来などどうでもいい、今この瞬間さえしのげれば、という発想です。五年の施行で明瞭な失敗であるモデル事業への継続予算付けという態度に見え隠れしています。自分たちの施策に異論を唱えるものは、徹底的に排斥し続けるのではシステムはやせ細るだけで、寄生された一般市民の体力が低下し、滅びてしまう。

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