海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2010.11.10 2010:11:10:10:21:54

転戦、また転戦

 そんな中、足立議員が政務官の任から外れ姿を消した第5回Ai活用検討委員会は、だれることなく粛々と行われる。第5回は医療事故遺族二組が切々と医療事故の苦しさを語る。聞きながら息苦しくなるが、医療に対する不信と司法裁判に対する不満が大部分。そうならないようにAiシステムを導入するんでもう少し我慢してねという気持ちになるが、オブザーバーにて発言できず。11の病院団体代表とふたつの遺族会どちらも言辞は厳しいがAi導入には賛成する。その流れの中で、警察庁のオブザーバーの方は、警察庁刑事局長の下に設置されている「犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度の在り方に関する研究会」の7月の中間取りまとめの概要を説明しました。警察が取り扱う死体総数に対する解剖率(昨年は10.1%)を、5年後をめどに20%にまで引き上げるとの目標を提示しましたが、ということは、残りの80%はお茶を濁し続けることを是認したわけで、そこで使われるのがAiであることは、自明の理。念のため会議終了後にお尋ねしたところ、その通りだと言いたげな目でうなずいたような気も。医師会の今村理事が、警察庁の研究会に、「現場の声を反映する形にしてほしい」「CTの専門家である放射線科の医師や技師を(メンバーに)入れることを検討してほしい」と誠にもっともな意見を述べましたが、果たして警察庁はこの妥当な意見に、どう答えるのでしょうか。

検討会終了後、日本放射線学会の今井理事、放射線専門医会元理事長中島教授、現理事の高野先生、山本先生、塩谷先生の5者で方針を話し合う。Ai研修費がモデル事業経由と今井教授は誤解したので、そうでないと確認後、深山班の研究結果を伺うと、「それなりに評価する」との回答に仰天。だがよく聞くと報告書は未読だというので、一読いただき態度を決めた方がよろしいのではと進言。報告書を読まずに評価するのは無責任なのでは? 席上、専門医向けのAi読影専門医資格と臨床医向けのAi認定医資格の二本立てのどちらも放射線学会にコントロールしていただく由を了承いただく。『失敗モデル事業』に過度に忠誠を誓うと、放射線学会本体への背信行為になりかねないと、今井理事にも理解していただけたようでした。さて、学会の方向性の舵を取る責任者として、モデル事業とどう相対していかれるか、ご注目、ということで。

その前の週は福井大Aiセンターが運用開始されたとのことで、福井で講演ふたつ、新潟長岡での新潟県医師会での市民講演会と日本海シリーズでした。福井大は解剖施設の側にCTとMRI を設置した、日本初のタイプのAiセンターが創設されたのですが、それを「Aiセンター」と公称できないらしい。その話を聞いたので「看板なきAiセンター」と命名しましたが、近い内に「公式なAiセンター」となるでしょう。少なくとも福井大では、放射線科、病理、法医の先生方の間で、極めて良好な関係が成り立っているからです。そう思っていたら、当日取材に訪れた福井新聞はしっかり見出しにAiセンターと打っていたのでした。

東大駒場で二年ぶりのゼミ講演、六十名以上の参加で教室に入りきれず。大教室を用意すれば、そうだ、「正義」の話でもしてあげられたのに(笑)。参加者は一年生が大部分、理系と文系が半々くらい。感想もいただきその素直さに感動しました。一年生はこうなのに、体制派は人の意見を聞くどころか、相手の口を塞ぐことにご執心。いったいどこでダメンズになるんだろう、東大システム。きっと法医学会と同じで、上に対する体制批判をすると除名されるからイエスマンしか残らず組織が退廃していくんだろうな、などと思うと、それって法医学会だけでなくて、霞が関もまったく同じことで、すると体制というものは、有能な人材を無能化する仕組みかもしれぬ、などと毒なことばかり考えて、最後の方はこの若い、優秀な人材を、いかに体制の毒から自己防衛させようか、などと考えながらちくちく挑発したりして。

実はそれが海堂ワクチン接種なんです(笑)。

自校の教授が名誉毀損で訴える相手を講演に招き、教室に入りきれないくらいの学生が集まるというのは、東大生と東大の健全さと懐の深さだけど、それにつけてもわが母校、千葉大はもはや上層部に蔓延する海堂バッシングのため、Aiセンターすら惰性施行で空中分解寸前のよう。ああ、上の器が小さければ、大人物など出現するはずもない。私が教わっていた二十年前は、もっと上層部の先生たちは気概に溢れて迫力がありましたが、なんとも小粒になってしまいました、千葉大。残念。少なくとも、千葉大が全力を挙げAiセンター推進に打って出る、という気概がないのが医学部上層部の判断と思われ、母校に対する愛着はあるけど、ダメだ、こりゃ。フロントがバカだからと批判した野球選手は、正当な批判だけど結局球団の体質は変えられなかったわけで、私も母校に正当な評価を下す時がきてしまったのは残念。不当な誹謗中傷やらに我慢してきたので、充分に義理は果たしたかと。

長岡の講演では、中学生女子の質問に虚を衝かれ立ち往生。講演後「なんで、Aiは進まないんですか」という素朴で根源的な質問。答えはわかっていて厚労省と学会上層部がやりたがらないからと、大雑把に言って間違いないんですが、結局みんなが変えようとしないから、というのが本当のところなのかも。「丸く収めることは強者のいいなりになること」だと、ある人から喝破され目からうろこが落ちたのですがそれなら「正論は弱者の遠吠え」だと即座に切り返せたのは我ながら上出来、Ai導入は正論と言われたのは、お前は弱者だと言われたのだなあとしみじみと思う。でも弱者の正論は、市民社会の支持によって最強の勇者として蘇生する。今、私はその時を待って、隠忍自重の日々を送っているのです。あ、隠忍自重でもないか。

近況です。

理論社が民事更生法を申請した、というニュースが流れました。ミステリーYA!というレーベルで、『医学のたまご』がお世話になっていますが、心配です。

実はこのニュースが流れる一月前に、嬉しい増刷のニュースをいただいたばかり。なのですぐに書店から消えることはないと思いますが、この機会にふだんは文庫落ちを待つ方々も、理論社への支援という意味を兼ね、『医学のたまご』を購入していただければ幸いです。あ、あと『ミステリーYA!』シリーズも(笑)。ちなみに、『医学のたまご』は今のところ、まだ文庫化をするつもりはありません。

11月、12月も講演ラッシュですが、来年からは少し減らそうかと。首都圏近辺の講演会では対応のやりとりで半日、発表準備一日、講演一日と一回の講演で二日半。地方巡業では、講演・懇親会で二日、合計三日半。つまり地方講演ふたつで一週間が潰れてしまう。10月の講演は7回、11月は6回。物理的に対応不能で、今後は講演依頼があってもかなりの確率でお断りすることになるかと。残念ですが、物語を書くのが本筋なので、これでは本末転倒かと。

そうだ、映画「ジーン・ワルツ」の公開ホームページが立ち上がり、予告編が視聴できます。今回は無事、予告編にも出演(笑)。このミス『隠し玉』コーナー執筆依頼が来ると、今年ももうじき終わるなあ、としみじみと思いますが、今年はちょっと気が楽。毎年書いていた『このミス』の短編は『ジェネラル・ルージュの伝説』に書いたとおり三回と決めていて今年はナシ。ほっとしていたらいくつか無茶な短編依頼、もとい、しがらみ企画が次々ときて、ぜいぜい言ってます。小説現代で「医療小説特集」を組むというので短編を書き、小説新潮では八百号記念号で「八百字の宇宙」企画でショートショート。締め切り二ヶ月前に原稿を渡したら激褒めされたけど、まあ八百字ですから(笑)。タイトルは「嘘八百」。字数もぴったり八百字、というくだらないところに凝ってみました。そこになんと宝島社が文芸誌に乱入、タイトルは「STORIES」というらしい。文芸誌冬の時代に、いかにも逆張りの宝島社さんらしい蛮勇溢れる企画にしがらみで書かされ、もとい、書かせていただきました。「『真説・リョーマ伝』縁起由来」。タイトルを見ればおわかりの通り、今年の風俗史てんこもりのショートストーリー。この書き方で、あ、ミステリーの枠から外れた物語を書いたな、とピンと来たあなたは、もはや立派な海堂フリーク(笑)。この唐突な依頼に対応するのは私にとっては超異例ですけど、おかげで、講演会やAi進捗、ゲラ直しに週刊誌連載や連載準備などで、現在リザーバーはすっからかんです。

野性時代では不定期連載・連作集『モルフェウスの領域』の最終回、「リインカネーション」が終了。すでに単行本のゲラは三校段階で、いよいよこれから本番。来年は怒濤の連載ラッシュが始まりますが、まだ詳細はオープンにできず。年末くらいには公開できるかも。

                  2010.10.27. 海堂尊

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