海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2010.10.05 2010:10:05:19:29:31

「オウム、解剖の森へお帰り」、閉じた世界・司法の証拠捏造事件、そしてアリアドネ好調御礼

 先日の厚生労働省の第四回Ai検討会では、来年度の予算の概算要求でAiの費用を要求していくと報告されました。これは記念すべき第一歩で、私は概念提唱者として担当部署の放射線科医の要望に応え、責任を果たせたと胸をなで下ろしています。ここから先は放射線科医のみなさんの自助努力で必要なものを獲得していってくださいませ。でも、それには放射線学会上層部がきちんと意思統一しないと、国からいただけるものもいただけなくなります。特に、司法関係の画像診断はやりたくない、などという意見が上層部にあるようですが、そんなえり好みをしていたら官僚の絶好の標的にされてしまいます。

 

 こんな流れにも関わらず、解剖至上主義者は相変わらず「Aiだけではダメ、必ず解剖せよ」というお題目の繰り返し。そんな彼らには「解剖至上主義者よ、解剖の森へお帰り」と言いたい。「医療事故調のモデル事業を無理やり継続させた「日本医療安全調査機構・運営委員会」は9月7日に第2回運営委員会が開催されましたが、そこには解剖至上主義者が多数棲息していることが明らかになりました。

 

 

■ Ai運用案で議論--モデル事業運営委(20100907日キャリアブレイン)より

 日本医療安全調査機構の運営委員会はAi運用案の議論を行った。山口徹監事は「Ai活用のポイントは、説明によって遺族から解剖の承諾を得る点にある」と強調した。「運用案」は、遺族から解剖承諾が得られればAiをせず解剖のみ実施。解剖承諾が得られない場合はAiを実施するが対象事例としない。開頭の承諾が得られなければ頭部CT撮影で代用する。黒田誠委員(病理学会)は、「大半の国民は医療機関で(Aiが)撮影されることも知らない。医療現場に新たな疲弊を招く」と指摘。「国民に正しい情報を流し、正しい理解をしていただかないと、(Aiで)すべてが分かると誤解する人がたくさんいる。慎重に始めていただきたい」と述べ、的場梁次委員(法医学会)も、「Aiをやるから解剖をしなくていいということではない。解剖するかどうかのスクリーニングとしての導入だ」と強調した。議論を受け、児玉安司委員(弁護士)は厚労省に「Aiか解剖かとの論点ではなく、対立の形にしないようご配慮いただきたい」と要望した。会合の冒頭、放射線学会の今井裕理事が新たに委員に就任したと発表した。「Aiの活用」具体化のため依頼し、費用面を含め活用方法について同学会と相談・連携しながら検討を進める。

 

 記事の発言者は「Aiだけではダメで、必ず解剖せよ」と言っているので「解剖至上主義」です。お三方は自施設でAiを実施せず、かつ画像診断の専門家でない。つまりAiの実施経験も専門知識にも欠ける方々がAiを批判しているわけです。それぞれの発言に反論してみます。

「医療現場に持ち込めば新たな疲弊を招く」→Aiだけではダメと主張すると、結果的に費用拠出を阻むので、かえって医療現場を疲弊させる。

「国民に正しい理解をしていただかないと、(Aiで)すべてが分かると誤解される」→まず解剖について語ってほしい。でないと「(解剖で)すべてが分かると誤解される」。解剖で死因がわかるのは75パーセント程度と現役の法医学者が公表しています。

「Aiをやるから解剖をしなくていいということはない」「Aiか解剖か、との論点ではなく、対立の形にしないようご配慮いただきたい」→Aiプリンシプルは「最初にAiを行い、死因が確定されれば解剖しない。確定しなければ解剖を勧める」。まずAiを行い必要なら解剖を追加するのがAi優先主義で、そこに対立項はありません。対立形にしたがるのは解剖至上主義者の方々です。

 

 解剖至上主義者の方々のロジックは自己崩壊しています。「解剖承諾が得られた場合はAiはせず従来通りの調査。Ai実施しても解剖しなければ対象事例としない」というのでは、死因を早急に知りたいという遺族の最大の希望を叶えられない。Aiで得た情報を「モデル事業として」責任もって遺族に伝えなければ、モデル事業の報告の遅さは解消できません。

 

「開頭の承諾が得られない場合、頭部CT撮影で代用できる」という部分はもっと破綻していて、死因究明制度における最重要ポイントの頭部でAi単独施行を認めているわけです。なのに「Ai実施しても解剖しなければ対象事例としない」というのはご都合主義で滅茶苦茶。「日本医学放射線学会の今井裕理事が、運営委の委員に新たに就任した」のは朗報ですが、委員は厚生労働省のAi検討委員会で、司法関連の画像に手を出したくないという消極的発言をし、放射線科医の委員から「責任回避の言辞ばかりされると放射線科医の意欲を阻害する」と指摘されるようなスタンスなので少々心配です。もし委員がモデル事業の方針に迎合するなら将来、放射線学会会員のデメリットにつながるので、くれぐれも発言にはご用心を。

 

 けれども9月20日、日本放射線学会秋期学会で専門医会Aiワーキンググループが開催され、2011年1月22日、23日に福岡で開催される放射線学会のミッドウインターセミナーで、Ai認定医研修会ならびに認定試験の開催が決定されました。この会には上述の今井委員も同席し全面賛同しています。これで来春の放射線学会ではAiに関するシンポジウムやワークショップが目白押しになるでしょう。何しろAi読影ガイドという書籍を監修した東大・大友教授が大会会長ですから。これでモデル事業や法医分野で発生するAi画像もAi読影認定医が読影しなければ正式に通用しなくなる。大阪を初めとして関西に蔓延する「撮影すれども診断せず」という「千葉大法医方式」は容認されなくなり、「法医学分野で発生したAiも放射線科医が診断する」という「法医学会理事長方式」に移行する。こうした放射線学会主導のAiの動向を、モデル事業担当者や警察庁有識者検討会の方々はご存じない。警察庁有識者会議では委員の法医学者が国費で海外視察したりしそうですが、ナンセンスです。

 

 海外視察が役に立たないのは「海外の制度は素晴らしい→日本でも真似しよう→法律が違うから真似できない→残念だ」で終わるからです。異状死解剖率百パーセントの北欧では法医学者はひとり年間三百五十体の解剖をしている(日本ではひとり百五十体:根拠は司法解剖+行政解剖=年一万五千体を法医学者百人で割った概数)という、現状で改善可能な部分はおそらく報告されません。百人の法医学者が北欧の法医学者並に働けば年三万五千体の解剖が可能になり、異状死解剖率二十五パーセントが達成されますが、警察庁の有識者会議からはそんな提言は発信されないでしょう。なぜなら現役の法医学者にとって都合の悪い真実だから。

 

 病理分野では10月1日、日本学術会議「医療における病理解剖」が行われます。座長は元病理学会理事長の長村先生と上記発言の黒田教授でモデル事業擁護の講演会なのは必定。医療安全部門代表の青梅市立病院・原義人先生は日本医療安全調査機構・事務局長で、Ai検討会ではオブザーバーとして私の隣席に座っていますが、やはり解剖至上主義者にほとほと手を焼いているご様子が窺え、事務局として対応に苦慮しAi情報センターにこっそり相談に来る始末。

 

 放射線科代表は札幌医大の兵藤秀樹先生で、札幌医科大Aiセンター創設に関わりAi学会理事、放射線専門医会AiWGの班員でもある。人選としては悪くないですが、この講演会趣旨なら厚生労働省班研究を主体でなくてはおかしいのでは? 病理学会代表は東大病理の深山先生で、厚生労働省の主任研究官の発表が病理解剖中心なのはAi専門外だから仕方ないとして、ご自分が発表しないなら研究班ただひとりの放射線科医の班員、山本正二先生に依頼すべきです。これではあの厚生労働省の公募研究班はなんだったか、意義が問われかねません。実際そうなると二年前に予想したのでブログで指摘したのですが。日本初の厚生労働省のAiの公募科学研究班の班員に発表させないのは実におかしい。抄録を見た放射線科医代表の兵藤先生は講演会でAiが軽視されているのを見て「少なからずメゲてた」とのこと。この調子で病理学会上層部やモデル事業執行部がAiを蔑視し続ければ、放射線科医、ひいては市民社会から手ひどいしっぺ返しを食らうでしょう。

 

そんな批判をしたブログ記事を名誉毀損で訴えてきた深山先生との民事訴訟の控訴審では、山本正二先生の証人尋問が決定し、判決は延期されました。事実上の審議やり直しです。地裁係争中の頃は、山本先生が研究班内部にいたので証人にお願いできませんでした。でも研究班は終了し、その結果があまりに専門家の意向を無視し杜撰なのと、研究班で大変不本意な扱いを受け続けたので、そうしたことをあらいざらいぶちまけることができるようになりました。

 

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