海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

『海堂ニュース』最新ネタ満載!

2010.10.05 2010:10:05:19:29:31

「オウム、解剖の森へお帰り」、閉じた世界・司法の証拠捏造事件、そしてアリアドネ好調御礼

さて、話は変わりますが、「週刊新潮」連載中の「ナニワ・モンスター」も、拙著『アリアドネの弾丸』も、警察や検察が証拠をでっち上げたら市民は対抗できないというモチーフですが、発売直後は「そんなバカなことあるわけない」とハナで笑った人たちも、大阪地検のエース検事の証拠偽造事件を見てさぞビックリしたことでしょう。いや、事前取材で察知した、なんてことはなく偶然なんですが。でも閉じた世界は腐ります。だからああいうことが起こる。あの検事は例外でなく、検察全体に蔓延する悪しき一部分がこぼれたのだと敏感な市民は感じている。私たち市民は司法に窓を開けなければなりません。

 

検察には「検察官一体の原則」がある。検察官も公務員で異動するから、事件途中で他の検事に引き継いだりする。それでも一貫性があるのはこの原則のためです。だから証拠を捏造した検事も一体化している。おそろしいのは、この検事はこれまでもこうしたことを繰り返していて、過去にこうしてでっち上げられた事件があったのではないかということです。最初にやったことがいきなり露見した可能性は低い。

 

それにしても朝日新聞スクープから最高検による直接逮捕という異例の事態決定まで丸一日しかかかっていないのは、現行犯逮捕ならまだしもあまりにも異様です。御用メディアは「検察の危機意識の現れ」と好意的に表現しましたが、検察内部である程度情報が流通していたと考えるのが自然で、そう考えると、検察は事態を認識しながら黙認したと考えざるを得ない。つまり検察に自浄作用はなかったのです。さらに恐ろしいのはもし朝日のスクープがなければ、この検事は今も「エース」と呼ばれ業務についていただろうということです。これと検察官一体の原則を合わせると、検察が組織として証拠捏造を黙認していたという結論になります。こうなるとたとえ最高検といえども事件を自組織で検証するのは不可能です。「検察官一体の原則」によれば、検事を裁くことは自らに刃を向けることになる。検察トップが指揮する検証では「この検事は特殊な例外だ」とトカゲの尻尾切りするしかないのですが、それでは検察のロジック「検察官一体の原則」が破綻する。どうするんでしょうね。

 

検察の誤魔化しは以下の二点に注目すれば事足ります。ひとつはトップの検事総長の責任の取り方です。自らの進退を明らかにしなければ、その検証は市民社会から信用されません。第二に検証を外部委員を含む第三者機関に委託し、情報を迅速に公開できるか。現状ではこの二点が不明瞭です。実はこうしたことは医療界では医療事故の時要求されていること。今回は悪意による司法事故ですから、その対応は興味深い。医療はそのやり方を踏襲すればいい。司法が素晴らしいお手本を見せてくれることを期待しましょう。

 

同じ社会の事象です。正義の象徴の検察の対応をお手本にしましょう。もし検察が第三者機関を作らなければ、医療事故で第三者機関を作る必要もなくなります。その時はメディアも、無責任に医療を批判しないように。何しろ正義の検察をお手本にしているのですから。

こう考えると、検察の対応如何では、社会のモラルが根底から崩壊してしまうかもしれません。この問題はそれくらい大きなことなです。まずは検察庁長官の対応を注視しましょう。

  

 証拠偽造は司法界が閉鎖社会だからできたことですが、死因究明における司法担当の法医学者は、まさに同じ体質です。司法における取り調べ可視化は、死因究明制度におけるAiと同じ位置にある。でもそれは取り調べ可視化よりずっと簡単で、死因を捜査情報から切り離し、医療現場に任せればいい。それができないのは法医学者が制度上の不備を放置しているから。これは海外視察をしなくてもできる。こうしたことを議論せず、海外視察をするだけなら単なる物見遊山です。解剖医は、放射線科医主体のAiシステム導入に非協力的ですが、それは死因究明制度の可視化を恐れている部分もあり、市民社会の要望に反している。放射線学会でAi読影認定医制度が構築された今、法医こそAi診断は専門認定医に委託しなければ特捜部エース検事の証拠偽造による冤罪容認と同じことが繰り返される。Aiを司法以外の医療で監督する仕組みは司法犯罪抑止に必須で、市民が健全な市民生活を営むための根本原則なのです。

 

  さて、近況です。おかげさまで新刊『アリアドネの弾丸』は各地で絶賛発売中、いろいろな書店で売り上げランキングトップを取らせていただきました。一瞬でもトップというのは気持ちがいい。秋は大作ラッシュで、私の頂点もセミのように短命ではありますが(笑)。『アリアドネの弾丸』刊行に伴い丸善丸の内本店でサイン会、翌日は九州で書店員さんの前で三十分のプチ講演。翌日は大阪の紀伊國屋梅田本店で新装開店こけら落としのサイン会、それから下関で山口九州薬学大会で講演し、大阪に舞い戻り取材しながら執筆とまあ、西日本シリーズでした。

 

 サイン会では暖かい言葉と気持ちを頂戴し、ヘバりそうになる気持ちにチャージしてもらっています。私のように言いたい放題、性格もよろしくない作家のファンの方々はどういう方かというと、下は小学生から上はかなりのご年配までと幅広く、男女比はきれいに1対1。間違いなく言えるのはみなさん上品で優しい方ばかり。うーむ、作家とファンを足せば標準値になるのでしょうか。一種のデトックスで、私の毒を中和していただいている気が。私は筆無精なのでお返事は書きませんが、代わりに新作に集中し作品を世の中に出すことがファンのみなさんへの一番の手紙だと思っていますのでご容赦を。執筆と講演でへろへろで、不義理があちこち山のよう。九州の書店員さんの集いでは、「海堂は紙の本で生きていく宣言」をしました。だってよくわからないんだもん、電子書籍。当面は参入予定はありませんので書店員のみなさん、これからもご支持をよろしくお願いします(笑)。

 

システムが確立された暁には電子書籍として全作品を一括しお任せしようかな、とも考えていますがその時は私の作品を高く評価してくださる版元さんにお願いするでしょう。文学賞候補にすらしない版元は問題外。それが版元さんの本音の評価ですから。賞をくれとはいわず候補にしてねという謙虚な申し出(笑)。どうせ文壇の重鎮は「シリーズ物は」とか言うでしょうが、書店挨拶では他の版元さんの本にもサインを頼まれたりするので、まさに本が売れない時代の版元という枠を越えた共存共栄システムです。文壇も新しい評価基準を採用しないと、時代に取り残されてしまいます。ああ、そうだ、文壇にも重松清さんのように私の試みを正当に評価して下さる方もいらっしゃることは感謝と共にお伝えします。

 

文学賞といえば、推理作家協会賞の一次候補作は版元推薦ですが、宝島社も推理作家協会に参加しているので今回は推薦してくれるかも(ハート)。でもウワサでは宝島社には推薦枠がないという話が。そんなバカな。それはミステリー界に貢献大の『このミステリーがすごい!』を長年継続してきた版元に対しあまりに冷酷な仕打ちなのでおそらくウワサかと。多くのミステリー作品が「『このミス』1位」を帯に巻くし、そのブランド力にあやかって十年以上前の一位を帯に謳ってリバイバルヒットさせたり、著者別一位をあたかも作品一位であるかのように宣伝するなど、利用するだけ利用しているのに推薦枠はないよ、だなんてあんまりですからね。だからそういう対応はウワサで、万が一過去は本当でも今年は違うはず。今の推理作家協会を率いるのは究極の自由人にして文壇の帝王、東野圭吾理事長なのできっとフェアな対応をしてくださるでしょう。だってそれが文壇の栄華のためですから。

 

「ナニワ・モンスター」は佳境、ナニワ取材も終わり年内には連載終了模様。そう聞いて胸をなで下ろす人もいらっしゃるかもしれませんが(笑)、そうは問屋が卸さない、10月からCS朝日ニュースターで「海堂ラボ」という番組が始まります。隔週の木曜夜10時。初めてのキャスターかと思っていたら、よく考えたらドラマ「チーム・バチスタの栄光」最終回で一度経験していました(笑)。あの時のゲストは白鳥圭輔という、厚生労働省のお役人だったと記憶してます。

 

アシスタントに駒村多恵さんを配備した超豪華対談番組で、初回ゲストはNPO法人ヘムネットの國松孝次理事長。第2回はAi情報センターの山本正二理事長。以後続々と私が興味を抱く、ふつう紹介されないような方を招き、お話を伺っていこうと思います。アクティヴ・フェーズは封印し、慣れないパッシヴ・フェーズ・スタイルでやるつもりですが(笑)。

 

 今月の「本の旅人」では南アフリカ旅行記最終回を掲載、「野性時代」では「モラトリアムの残照」掲載、『モルフェウスの領域』は年末に書籍として刊行予定です。講演も多数、全国行脚に旅立ちます。死因不明社会2も極悪非道の常識人の鑑、編集TKさんと丁々発止の原稿往復中。一夏を丸々費やした第0稿は40万字、つまり1000枚。例によって厳しい指導で30万字にシェイプアップし、なお継続中。年度内出版をめざした書籍のタイトルは「海堂尊・Ai闘争4000日(仮)」(笑)。これが一番の台風の目、かも。帯は「祝・病理学会100周年」にしたいんですけどと提案したら、即座に却下されたという香ばしくも刺激たっぷりの逸品。どうかお楽しみに。           

                     2010.09.24 海堂尊

続きを読む 12