海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2009.07.06 2009:07:06:17:43:00

『1Q84』、直木賞・本屋大賞ぶった斬り(笑)

 ここのところ医学の専門的な話題が続いたので、久しぶりに柔らかい話題を。
 村上春樹さんの『1Q84』が社会現象になっています。最近本を読むヒマのない私ですが手にとったのが運のつき、一気に読まされてしまいました。うう、死ぬほど忙しいのに。。。
 村上春樹さんの既読作品は『神の子どもたちはみな踊る』と『海辺のカフカ』の二作です。どちらも素人時代に何となく手に取り一気読み。印象的だったのは「かえるくん、地球を救う」という短編です。こう言うと編集の人たちに「『ノルウェイの森』を読んでないんですか?」と驚かれますが、その時期は外科医時代で読書生活暗黒の10年(@『ジェネラル・ルージュの伝説』/海堂尊以前・以後)でしたので、本をまったく読んでいなかったのです。
 おそろしいことに村上春樹さんと同業になったので、そういう視点でも読んでしまいました。私ごときがいうのも僭越ですが、面白くて上手い。文学とはその二つの要素さえあればいいという原理主義者の私は、楽しく読ませていただきました。
 豊かな物語です。批判もあるようですが、この本を読むと誰かと語りたくなる。それはこの物語世界が豊潤だからだと思います。
 この本の出版に付随してさまざまな評論やインタビュー記事が出ましたが、それを読むとどうやら村上春樹さんはこれまで旧文壇からひどい仕打ちを受けていたようです。
 文壇素人の私の目から見ると、村上春樹批判をしている文壇人は、単に「嫉妬」しているだけに思えます。ま、個人的印象ですが。そうでないとすれば、そう思わせてしまうような評論家の方々の書き方がヘタなのだと思います。説得力が不足しているわけですね。ちなみに私は上記の読書歴から明らかなように、ハルキストではありません。念のため。
 それから、これは評論ではなく読書感想文です。私は創作者と批評家は分離すべきだと思っていますので、帯の推薦文や新聞書評、文庫解説のオファーは基本的にお断りしています。なぜなら同一人物がその二つの立場を兼ねると、往々にして「嫉妬による不当評価」あるいは「経済原則に従った過剰修飾」が行われる傾向があるからです。

 さて、予言をひとつ。今年は『1Q84』が本屋大賞を受賞するでしょう。私が実行委員なら迷わず『1Q84』を候補にします。これまでの経緯から見ればおそらく直木賞は『1Q84』を候補にできない。そうすれば来年も本屋大賞が直木賞に圧勝することは約束されたも同然です。「こんなおいしい状況を見逃す手はないぜ」ですよ、本屋大賞執行部のみなさま。
 こんな優れた戦略を提供したのですから、しがない一作家の私のささやかな願い『本屋さんが一番売りたい本』というコピーの変更をご検討いただけると幸いです。ここに書くと長くなるので、お願いの心理的根拠は拙著『ジェネラル・ルージュの伝説』をお読み下さい。私は本屋大賞の趣旨は面白いと思っていますが、あの無神経なキャッチコピーだけはどうしても嫌な感じを受けてしまいます。いったい、誰が考えたんだろう。本屋さんではないような気がしてならないのですが。
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