海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2009.08.17 2009:08:17:17:44:56

SLAPPをくらったか?

 現在、東大病理学教室深山教授から名誉毀損で民事裁判を起こされていますが、いよいよ佳境、9月16日、深山教授と私の証人尋問が行われます。初めて直接お目に掛かる機会をいただけるようで、実に光栄です。お暇な皆さんは是非、東京地裁へどうぞ。
 最近、この裁判は「SLAPP」の一種ではないかという印象を持ち始めています。
「SLAPP」とは、「stratecgic Lawsuit Against Public Participation」の略で、『週刊朝日2009.7.17発売号メディア不問で市民をねらい打ち』の中で述べられているので定義を引用し、その中の文章の論理の枠組みを拝借して、今回の訴訟についての印象を記述してみます。
「SLAPP」の定義は「嫌がらせや恫喝による口封じを目的とした訴訟」であり、「個人にとっては名誉毀損に該当すると本人が感じたとしても、それは『小さな倫理』にすぎない。むしろ、病理学会副理事長という肩書きで応募した、包括的研究に対してミスリーディングを行ったという批判に学術的に何ら対応しようとしない事実の方が、医療人や社会にとってはるかに意味が大きい。メディアも裁判所も『大きな倫理』に照らして問題を考えるべきではないか」(鍵カッコ内は上記記事の文章の枠組みに、本件の内容を当てはめてみた文章です)。
 そして「メディアが取り上げようとしないのは、係争中の民事訴訟は扱わないという『公平・中立』原則にしばられているからですが、それこそがSLAPP の狙いです。訴えたという事実は報道されるが、法廷での審理の中身だけでなく、被告が勝訴しても大きく報じられることはまずない。一方で訴えられた個人は、訴訟費用の負担も含めて追い込まれる」というものであり、これにより失われるのは、正当な批判なのです。

 さて、私が民事で訴えられている案件が「SLAPP」の一種に該当すると考えるのは、以下からです。まず私個人と宝島社、日経BP社の三カ所を同時に訴えていること。ところが提出資料は三つの訴訟すべてほぼ共通、陳述書もほとんど同じ。つまり訴えた内容はほぼ同じで、ふつうこういう訴訟は常識的にはしない、と弁護士さんはおっしゃっていました。さらに以下の項目があります。
① 本件は科学研究の枠組みを批判したもので、そもそも名誉毀損に該当しない類の論説である。
② 彼の訴訟により対応に忙殺され、この時期にきたいくつかの依頼を断らざるをえなくなった。(文藝春秋さん、講談社さん、PHPさん、実業之日本社さん、中央公論新社さん、理論社さん、ごめんなさい。何よりも、私の新作を待ってくれている読者の皆さん、すみません)
③ 弁護士費用の拠出を余儀なくされた。
④ 深山教授は三カ所を同時に訴えている。したがって、三カ所に弁護士費用が発生してしまう。
⑤ 三つの民事裁判の部署が、ばらばらに訴状を検討している。司法労力資源の無駄遣いを強いている。
⑥ 同じ様な資料を三部、刷らなくてはならない。紙資源の無駄遣いであり、エコの精神に反する。
⑦ 日経BP社、宝島社に対しては、約1年前、ブログ差止めの仮処分申請が行われたが、司法による差止め決定は行われず、半ばその訴えが公益性に乏しいという判断がすでになされているも同然である。
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