海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2009.07.06 2009:07:06:17:43:00

『1Q84』、直木賞・本屋大賞ぶった斬り(笑)

 実は今年の上半期は、文壇の大地殻変動を示すニュースがありました。
 オリコン2009年上半期の売り上げで、本屋大賞受賞作が直木賞受賞2作を売り上げで上回ったのです。これは本屋大賞が直木賞を越えたことを意味します。なぜなら直木賞はそもそも本の売り上げが落ちる2月と8月に「本を売る仕組み」として菊池寛が考案したのが原点です。つまり売上増が初志です。いつしか直木賞は文学の権威であるかのように認識されるようになりましたが、権威化すれば同時に凋落も始まります。権威化した直木賞に対するアンチテーゼとして提案されたのが本屋大賞です。
 売り上げで本屋大賞作品が直木賞作品を上回ったということは、本屋大賞が結果を出したということです。そして直木賞も含め文学賞がいくつか発表されましたが、残念ながら市場はほとんど反応しません。これは現在の文学賞や文壇のあり方に対する、社会の回答ではないかと思います。権威の地殻変動が起こっている。それが今なのでしょう。
 それにしても、直木賞vs.本屋大賞の今期の売上げ結果の意味なんて、ちょっとネットでデータを調べて考えれば誰でもすぐに思いつきそうなことなのに、どうして誰も何も言わないのでしょう。ひょっとしてタブー、なんでしょうか?

 ここでひとつ、ご報告と御礼を。オリコン2009年上半期文庫実売数で『ジェネラル・ルージュの凱旋』(上)(下)が1位・2位を、『螺鈿迷宮』(上)(下)が3位・4位、『ナイチンゲールの沈黙』(上)(下)が14位・15位、『チーム・バチスタの栄光』(上)(下)が25位・26位と、文庫化している全作品が30位以内にランクインしました。これも読者の皆さまと書店の方々のご支持のおかげです。本当にありがとうございます。
一冊の本を買っていただくことがどれほど大変なことか、よくわかりますので本当に嬉しいです。私は常に、私の本を手にしたひとりの読者が、その本を買ってくれるだろうかという、そのことだけを考えて執筆しています。私の本を手に取ったたったひとりの方に、この物語は面白いですよと訴えるのに必死です。ですから、これだけ多くの人が私の本を読んでいただいたという結果に感謝し、素直に喜んでいます。
 私は「好きなことを好きなように書く」ことと「ごくたまに、書かなければならないことを書く」という、このふたつしかできない作家です。私が書き続けられるのは、多くの方が読んで下さる、という一点につきます。なので本当にうれしいです。

 さて、そんな私が目指す次のミッションは「文学賞候補になること」です。う、なんか、巷で今はやりの東国原知事の「自民党総裁候補にすることが条件」という発言とどことなくスタンスが似ているような(笑)。
 このミッションは昨年の山本周五郎賞候補にしていただいたことですでに一度達成していますが、「最新作が自信作」と公言する私ですから常にエントリーを目指したい。しかし具体的に特別なことをするわけではありません。自分で何かできる領域ではないからです。文学賞候補の推薦作は版元の編集さんが選ぶので、作家に対する版元さんの総合評価の現れだと理解しています。ですから候補の方々は版元さんが私よりも「重点作家」として評価している当面のライバルです。正確には「作家と批評家と編集者がサークルみたいなものを組んで機能している」(「モンキービジネス」2009spring vol.5 対話号/村上春樹インタビューより)集団での評価なのかもしれませんが(笑)。
 売り上げランキングのトップを獲ることと、文学賞を獲ることのどちらが難しいかと問われると、その答えは難しい。
 実は医学界でも似たような構図が見られます。Ai に関する病理学会、法医学会のお偉いさんたちの迷走ぶりを見れば一目瞭然です。彼らは自分の権益を守る妄執に囚われ、新しい医学概念を低く評価します。一方、Aiの概念は一般市民に広く受け容れられている。Aiが優れたシステムだということを、濁りのない目で判断して下さっているからです。
「売上高」と「Aiの市民社会における支持」、「文学賞候補推薦」と「学会におけるAiへの処遇」を比較すると、文学賞候補になることの困難さが想像できます。
 それは病理学会で私の演題が表彰されるようなものなのでしょう。

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