海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2008.12.19 2008:12:19:17:25:46

ドラマと映画と訴訟と

 私はAi研究の先駆者として、ブログで問題点を指摘し、公募研究に対し問題提起をしました。以前も書きましたが深山氏の個人的なことに関しては一切触れていません。なぜなら私は深山氏とは一面識もないから、個人的な誹謗中傷を行なおうにもできないのです。
 ですからこの議論は、本来なら司直の手を煩わせず、学会という専門部門で公衆の面前で行なわれるべきでしょう。病理学会でそのような場を設定していただければ私は逃げませんが。これは病理学会副理事である深山氏には差配可能です。
 深山氏はご自分がこのように訴えたことの影響をあまり深く考えていないのかも知れませんが、その影響は甚大です。なぜなら深山氏がこの公募研究に応募できるとした根拠は、厚生労働省の医療事故に関する『モデル事業』に関わっていたからだと主張されています。そもそも『モデル事業』は、医療過誤が裁判になじまないので中立的第三者機関で司法の手に頼らず解決する枠組みを作ろうという観点で設立されたものだと理解しています。そうした組織を作ろうとして関与された方が、明らかに学術的分野における議論で解決できる問題を司直の手に委ねる判断をしたわけです。これでは自立的な話し合いでの問題解決など信用せず、何事も結局司法の手に委ねなければ解決しない、と医療事故を扱う『モデル事業』の人たちが根底で考えているということになりませんか? 「話し合いなんかでは問題は解決しない。やっぱり最後は裁判だ」。『モデル事業』に関与したことを根拠にAi研究班のトップに着任した、Aiに関する業績ゼロの主任研究官は、そのように考えている方なのだと判断されかねません。これでは『モデル事業』の理念が足元から崩壊しているようなものですし、その『モデル事業』を土台に構築される医療安全調査委員会なる組織は、やはり司法が主体になる制度設計が行われていることになるのではないでしょうか。
 この研究班の研究継続申請がそろそろ提出される頃です。厚生労働省の担当部署の判断を注目したいと思います。もし研究継続が認められなければ、深山氏は私が業務妨害をしたと訴えようとするでしょう。ですがそれは逆恨みです。何しろ班会議は私のブログに関わらず、淡々と行なわれていました。だから私の指摘は、研究班の活動にはまったく影響しなかったわけです。研究班が立ち上がりすでに8ヶ月が経過しています。もし研究継続が認められなければ、それはその時点での御自身の研究内容が不充分だということで、主任研究官としての力不足だったことを示しているだけです。継続申請が認められなかったら、東大病理学教室がAiの主任研究官になるのはおかしいという私の指摘が適切だったという証拠です。
 ちなみに私は、研究継続は認められるのではないか、と予想しています。そうなると今度はこの訴訟自体が論理矛盾をきたします。しかもそうなった場合、今度は厚生労働省の研究審査に対し大いなる疑念が生じます。東大は11月25日からようやくモバイルCTを用いたAi解析を実地に開始したばかり。ですから継続申請には東大における施行の結果は盛り込めません。ということはこれまで先行して実施した千葉大や筑波メディカルセンター病院での研究内容をもとに研究班の続行申請をすることになります。これは実質的に先行研究の業績をかすめ取る行為に近い。同時に厚生労働省はこうした実績ゼロの主任研究官であることを見抜けないまま再任するわけですから、厚生労働省の研究審査に疑念が生じます。この未曾有の不況で、医療費削減も厳しく行われる中、東大が主催する研究に対してだけは大甘の査定をするようにも見える。税金の使い道として許されるのでしょうか。
 この問題で私が引かないのは、これから育つ若手の病理医のためでもあります。もしも私がふつうの病理医だったら、こういうことをされても泣き寝入りするしかないでしょう。そしてひとりの有望な若手が腐ってしまう。それは日本の未来にとって損失です。当事者が裁判に訴えるという暴挙に出た以上、再発防止のためには、病理学会理事会がそのような観点からこの問題を第三者を含めた中立的な検討委員会を設置して検討していただくしか、学術集団としての対処法はないでしょう。そうでもしないと若手に対し、「病理は素晴らしい学問領域だからどんどんおいで」と言えなくなってしまいますよ。
 素晴らしい病理の先生は大勢います。深山氏も本当は素晴らしい病理医なのでしょう。ですが、どんな人でも過ちはある。誤ったら謝罪してやり直せばいい。確かそれが医療事故に対し、『モデル事業』の人たちが抱いている基本理念のひとつのはず。それは学術領域の医療事故のようなものである本件に関しても成立するのではないでしょうか。
 メディアは是非、この問題を当事者である深山氏に取材してみて下さい。何しろ裁判ではメディアの強者である私が一方的な主張展開をしていると主張されているわけですし、そもそも裁判に訴えたということは公然と社会に対して主張したということですから取材拒否という態度はおかしい。おかしなことをする時には、ひょっとして公にできない何かがあるのかもしれません。そこを追求してみれば、研究費絡みの根深い問題につながるスクープが見つかるかも。
 実はこれは報道メディアの見識も問われる問題なのです。

以上

2008.12.19(海堂 尊)
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