海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2008.12.19 2008:12:19:17:25:46

ドラマと映画と訴訟と

 さて現状報告が終わり、うんざりする話を書かなければなりません。今週号の「週刊朝日」にも掲載されましたが、私がブログで公費研究について言及した件で、東大病理学教室の深山教授から名誉毀損で訴えられました。
 経緯はこうです。厚生労働省のAiに対する公募科学研究に対し、病理学教室の深山氏が主任研究官として採用されたことに対しブログで批判しました。Aiは画像診断なので画像診断の専門医が主任になるべきだという批判です。なにしろ応募時点で深山氏は、Aiに対する研究実績がゼロ。なのにその後、厚生労働省は深山班をAiに関するトップ研究班として認知し、メディア報道もされています。
 深山氏はブログ掲載後、班員を入れ替えAiの専門家である千葉大、及び筑波メディカルセンター病院のメンバーを追加しました。追加後、私のブログに抗議し、やがて掲載差し止めの仮処分申請を行ったのです。これが7月ですが、仮処分手続きが思うように進まないのに業を煮やし、10月になってとうとう名誉毀損で訴えてきたというわけです。
 こうしたことを知った「週刊朝日」が取材したところ、何と訴えた側が「取材拒否」。前代未聞だと取材者は驚いていました。なのに訴状には「メディアの力を一方的に使い」のような文言が。
 そもそも抗議があったときも、医療系ブログで公開討論にいつでも応じる、とお伝えしていましたし、何より深山氏は病理学会副理事長ですから、こうした議論を公衆の面前で行う場の設定は可能です。私の批判は公募研究応募という公的資金を使った学術分野の話なので、個人に対する名誉毀損などではありません。それを個人に対する名誉毀損問題にすりかえて訴えるのは、学術領域の自由な議論を阻害する行為であり、アカデミズムの世界ではやってはならないことだと思います。
 ちなみにこうした訴えをサポートしている加治弁護士は、かつて深山氏の教室に在籍し、厚生労働省のモデル事業にも関わり、発足当時の深山班の研究協力員にも名を連ねています。何よりこの公募研究応募前の11月に、まったく面識のない千葉大Aiセンターの担当者に突然電話を掛けてAiの運用などにつき根ほり葉ほり尋ねた、といいます。この問題に関してはいわば当事者のひとりのようなものだから多くの弁護士が「無理筋であり得ませんね」と判断した訴訟に突っ込んできたのかもしれません。まあ、これはミステリー作家の当て推量ですが。
 深山氏は出版二社と私を別々に訴えています。でも中身はほとんど同一なので併合の申し出をしているのですが、なぜか裁判所から却下されました。同じ案件を三カ所の別々の裁判官が裁く、そして同じ証言を三カ所で行う羽目になりそうです。ああ、めんどくさい。司法世界では業務の合理的軽量化という考えはそぐわないのでしょうか。裁判員制度導入など、開かれた司法をめざしているはずなので、素人の私の意見も耳に入れていただきたいな、と思います。でないと司法が実際の社会からどんどん乖離してしまうのではないでしょうか。へんなの。
 本来、アカデミズムの場で公平な立場で議論されるべき問題が司法の場に持ち込まれ、持ち込んだ当事者が病理学会副理事長という要職にあるという点は、社会的見識を問われるのではないでしょうか。なぜ深山氏は裁判という公的な訴えを起こしながら、取材メディアに対し自説を主張しないのでしょう。このままでは病理学会というアカデミズム集団は、学術的論争を司法の場で解決するしかできないへんてこりんな学術集団だと世間から誤解されてしまいます。病理学会の自浄作用は期待できないのでしょうかね。
 この訴訟はヒラ学会員の私から見ると、パワーハラスメントや、アカデミックハラスメントにさえ見えます。なぜなら私は、病理学会で先駆的に Aiの研究を発表してきたのですが、その先行研究に何らリスペクトを払わず堂々と実績ゼロの学会重鎮に主催されてしまったわけですから。こうやってこれまで積み上げてきた実績と業績に関し、病理学会から梯子を外されてしまったようなものなのです。このこと自体、学術の精神にはそぐわないと思います。それでもせめて先行研究者としてこの枠組みではAiがとんでもないことになってしまうという危惧を理解してもらいたいと考え、かつて病理学会理事長にメールしても全然相手にしてもらえなかったので仕方なくブログで指摘しました。そうしたら今度は裁判に訴え意見の表明まで抑え込もうとする。これは自由な議論を封殺する言論弾圧そのものでしょう。こうしたことを司法が支持するとしたら、そこに社会正義はありません。
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