海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2014.01.17 2014:01:17:12:12:06

東日本大震災から間もなく二年。「救命」文庫化の後書きによせて。

 あけましておめでとうございます。

 

 ドラマ「螺鈿迷宮」がスタートしました。夏から丁寧に撮影し、11月にはクランクアップし、その後、じっくりと編集したという、近年のやっつけ仕事が多いドラマの中では、腰をすえたドラマで、大変面白い仕上がりになっています。例によって原作とは大きく掛け離れたストーリー展開ですが、不思議と原作とシンクロ感があるのは、もはやお約束。関西テレビのスタッフや出演者の方々が丁寧にドラマ世界を作り上げてくださったからでしょう。関東地域での視聴率が12.9%と速報で報じられていましたが、スタッフの方からは、関西では17.4%の高視聴率だったという連絡もいただきました。さすが、ナニワは私の第二の故郷です。

 

 何しろ「ファイナル」なのでがんばってほしいなあ、と思います。

 

 

 さて、今回は趣を変えて、宝島社さん、新潮社さんのご許可もいただいて、2月に文庫化される「救命」(新潮文庫)に書いた後書きを掲載します。年末年始にいろいろあって、いろいろ考えながら書き上げた文章です。

 

 多くは語りません。でも、ご一読していただき、みなさんに考えていただきたいと思います。

 

 ちなみにこの本は、私が監修ということになっておりますが、実体は新潮社の編集の方々とライターの方々の労作です。出来がいいので、きちんと創作者のオナーを記しておくべきだと思い、ここに改めて記しておきます。

 

 

『ひとの善意を壊すもの』(『救命―東日本大震災、医師たちの奮闘』文庫版後書き)

 

 

 ひとの善意を壊すもの

 

 

 文庫化にあたり、単行本の後書きを読み返してみた。後書きを執筆したのは2011年7月で、世の中が東日本大震災の余波の真っ只中にあった頃だ。

 

 あれから二年半。世の中は変わった。

 

 被災地の頑張りの方向性は一貫しているが、社会のベクトルは大きくぶれ、被災地をネグレクトする方向に動いてしまった。そうした動きをここで詳細にあげつらうと却って論点がぼけてしまうので、一点に集中して述べる。

 

 それは行政と政治の、被災地、ひいては日本国民全体に対する背信行為である。

 

 

 震災後と2014年初頭の、もっとも大きな違いは、民主党政権から自民党政権に政権交代したことだろう。自民党政権は、以前、凋落した原因をすっかり忘れ、完全に官僚制度の無批判全面支持というスタイルに舞い戻ってしまっている。

 

 そして官僚が震災後に行なった、もっとも悪辣な行為が「復興予算の流用」である。復興予算という名の下で集めた税金を、自分たちの利益を守ることを優先して使った、国家機構による詐欺行為である。おそろしいことに、個人がやったら罰せられるであろう「犯罪行為」も、国家体制が行なえばほとんど咎められず、結果的に正当化されてしまう。

 

 

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