前著は『救命―2011』で、本書は『救命―2013』という、まったく新しい書籍と考えても差し支えがない。
美しい恋愛小説だと思って読み進めていた物語が、最後の一章で突然、醜悪なホラー小説に変貌してしまったようなものだ。こうした作りはフィクションの領域では、「どんでん返し」と呼び、ミステリーの基本構造ではあるのだが。
ミステリー作家として、日本社会のこんなどんでん返しを予見できなかったのは忸怩たる思いである。だが、そんなことが起こるとは思わなかった、という最低ラインの信頼感を、国家に持っていたがための不明を恥じる気にはなれない。
"信なくば立たず"という言葉の重さを今、ひしひしと実感している。
そんな絶望感の中、本書に描かれた人の善意が確かに存在した、ということが、日本社会の命綱になってしまっている、と感じるのは筆者だけではないだろう。
そうした諸々の意味を込めて本書は、2014年を迎えるに当たり日本人なら誰もが手に取って、読んでいただきたい書籍である。
2014年元旦 海堂尊
近況です。
1)上記の通り、関西テレビで「チームバチスタ4・螺鈿迷宮」が絶賛放映中です。昨年末、映画「ケルベロスの肖像」の撮影見学に行ってきました。学会の場面で、丸一日の撮影は、リアルでスリリングでした。伊藤淳史さん、仲村トオルさん、生瀬勝久さん、栗山千明さん、利重剛さんにご挨拶しました。みなさん、気合いが入っていました。年末にクランクアップしたそうなので、できあがりを楽しみにしています。東宝さんで3月29日、公開です。
2)文庫化第一弾、『ケルベロスの肖像』が刊行されました。ボーナストラックで読み切り短編が収録されています。JTさんの「一服の相対性」で執筆した作品で、単行本未収録作品です。この流れの中で読むと、また別の趣が感じられますので是非。おかげさまで売り上げ好調なようで、2014年最初の業務メールは、『ケルベロスの肖像』文庫の発売前重版決定のお知らせでした。みなさまのおかげです。ありがとうございました。
3)ドラマ化のおかげで、新装版『螺鈿迷宮』も好調のようです。文庫化第二弾に二月、『輝天炎上』(角川書店)と合わせてどうぞ。
4)文庫化第三弾は新潮社シリーズ。『ナニワ・モンスター』三月発進です。こちらは映画化と同時のタイミングになりそうです。また、二月には上記のように『救命』の文庫化も出版されます。こちらも是非。
5)3月『カレイドスコープの箱庭』、久々の長編は年末に無事責了。これからデータブックの作製に入ります。著者本人でさえ、もはやこのガイドなしには執筆困難と言われる桜宮サーガの密林地帯に、新たな光が射すことを祈っています。
6)PHPさんから、『知られざる変革者たち 「海堂ラボ」vol.3』が二月に刊行されます。特別収録として、本書を構成してくださった東えりかさんのゲスト回で、医療小説について語ってもらった部分が特別収録されました。本当に、奇跡みたいに面白い番組だったので(本人談)、こうして紙上で再現されることが嬉しくてなりません。海堂ラボ、これにて完全終了です。
7)一月発売、野性時代2月号は「医療小説の迷宮」で、短編『司法解剖・所得倍増計画』を寄稿しています。法医学者と作家の大変さを浮き彫りにした作品で、物議を醸すこと必定か。ただし、Aiは封印しています。また特集では、バチスタシリーズのドラマの主演のお二人、伊藤淳史さんと仲村トオルさんとの鼎談も収録されています。この他、ブックガイド『医療小説病棟』、『知っておきたい医療小説キーワード』と、力のこもった特集企画を書評家のタカザワケンジさんがやってくれています。医療小説ファンなら必携です。
8)週刊新潮『スカラムーシュ・ムーン』、好評連載中。原稿の貯金は半年分。ぎりぎりで原稿を仕上げるとか、落としそうになったことを武勇伝のように語る作家や、それを伝説のようにあがめ奉る文壇の空気は、真面目にやっている作家からするとなんだかなあ、という気持ちになります。
9)年明けの元旦に、北海道新聞の特別冊子、「氷点五十周年」の巻頭エッセーを寄稿しました。三浦綾子さんの「氷点」にまつわる小冊子で、格調高いものでした。
10)久々にテレビ出演予定。NHK・Eテレ「テストの花道」で「悩みを抱える若い世代にアドバイスを」だそうです。2月25日(月曜)放映予定らしい。
2014年1月14日 海堂尊