海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2007.10.15 2007:10:15:16:18:04

バチスタ映画化と、時津風部屋力士リンチ死事件

 8月、9月も多忙でした。五百枚の作品三本のゲラが行き来して、それに連載が何本か重なり、最後の方はもう、何が何やら(笑)。
 厚生労働省から打診された「エーアイ勉強会」がドタキャンされたことは報告しましたが、マスゾエ大臣も社会保険庁のていたらくを市町村に押しつける時間があるのなら、それこそ足元の厚生労働省をきちんと監督指導されては、と思います。でも良いニュースもあり、日本医師会がエーアイを導入する方向でプロジェクトを立ち上げる方向で動きはじめました。日本医師会がこうした新しい試みをしていることはどんどんオープンにして、どんどん進めていっていただきたいと思います。
 いずれにしても、解剖制度を充実させなければいけない、という意見には大賛成ですが、それでは現在の「死因不明社会」は実は解決しません。今、大問題の時津風部屋力士リンチ死事件を見ても、よくわかります。この力士は愛知で亡くなったのに、実家の新潟で行政解剖されています。しかもきっかけは遺族の要望です。どこかおかしいと思いませんか? なぜ愛知で解剖されずに死亡診断書が記載されてしまったのでしょうか?
 これこそ、解剖制度をいくら整えても意味がない、ということの現れです。これは仕方のないことで、現在、解剖の適否は体表からの検索だけで決められています。これでは適切な判断ができなくても仕方ありません。(ただし今回のケースは体表所見も相当ひどかったらしいので、なぜ犯罪を見逃したのかは本当に不思議なのですが)。だからこそ、死体の画像診断であるエーアイを医療や社会制度の標準システムとして整備するべきなのです。エーアイが導入されていたら、今回の事件はもっと早い段階で指摘されていました。そうした積み重ねをしていけば、不幸はずいぶん減ることでしょう。誤解なきように申し添えておきますが、解剖制度を整えなくて良いと言う主張ではありません。エーアイは解剖と次元の違う検査なので、全く別の導入法を検討すべきです。整備の順番としてエーアイが先、解剖は次、なのです。(こういうことを言うから、解剖関連学会のお偉い先生たちからはつまはじきにされてしまうのですが)
 解剖制度の拡充だけでは「死因不明社会」問題は解決しません。今回の力士リンチ死事件を検出するために、現行の解剖制度は全く機能しませんでした。遺族の要望での解剖だったことは、異常発見システムとして解剖主体の現行制度が無力だったことを意味しています。
 「死因不明社会」という社会的疾病に対する唯一の処方箋はエーアイの導入しかありません。それは不可能ではなく、実はたやすいことです。何よりの証拠が、千葉大に設立されたエーアイセンターの存在です。どこでもやればできるはずなのです。
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