海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

『インタビュー』スペシャル企画

  • 文庫週間ランキング
  • ORICON STYLE(2010年1月25日付)
  • 1位、2位独占!

『イノセント・ゲリラの祝祭』文庫化記念、特別インタビュー

『イノセント・ゲリラの祝祭』を文庫化を記念して、海堂さんへインタビューを敢行!
本作への思いを存分に語ってもらいました。

いつのまにか辿りついたシリーズ最新作

 この作品の読みどころは、ずばり全部です。
 『チーム・バチスタの栄光』から書き続けてきて、ようやくここに辿りついたというイメージを持っています。といっても、『バチスタ』執筆時からゆくゆく は霞ヶ関へ、と考えていたわけではなく、目先の要請に応えていたらいつのまにか辿りついていた、というほうが正しいです。
 ただ、『ジェネラル・ルージュの凱旋』を書いていたころは、もう霞ヶ関が見えていました。私はいつも2、3作先ぐらいまでの物語の構想を考えているんで す。『ジェネラル・ルージュ』のときも、一応「バチスタシリーズ3部作」と謳ってはいましたが、その後オファーを頂いたらどうしようって思っていたので (笑)。

田口・白鳥シリーズは新展開へ

 今回、田口の後輩である「彦根」というキャラクターが新しく登場しますが、私の場合、物語を書いていると自然とキャラクターが登場してくるんですよ。今 回の彦根もそのパターンでした。ただ、新しいキャラクターが浮かんでも、これまでの作品を振り返って、似通ったキャラクターがすでに登場していたら、そい つに変更しちゃいますね。
 彦根は私自身ではないか、という感想も頂戴しますが、まあ、勝手に投影させるがいいさ、と思っています(笑)。実際、書き上げたときに「これはもしかし たら私と重ねる人もいるんじゃないか」と思いましたけどね。ただ彼とは、性質がまったく違いますから、モデルではありません。
 また、厚生労働省会議室でのやりとりも現実なのではないか、と言われますが、そこでのやりとりや雰囲気は、まったくといっていいほど違います。現実の会議は本当に退屈で、そのまま書き起こしたら小説にならないな、という印象を受けたほどですから。
 ただ、こんなつまらない会議が行なわれているんだっていうことは知ってほしかった。ここで壁にぶち当たったわけです。つまらない会議をそのまま書いたっ て、つまらない小説になるだけだって。とても苦労して、極めて高度な文学的テクニックを駆使しました(笑)。だから今回の作品は当時の持てる力をすべて注 ぎ込んだ力作ですね。

文庫ならではのお楽しみ。単行本との読み比べ

 今回の文庫化にあたっては、単行本で示唆するだけに留めていた、短編「東京都二十三区内外殺人事件」を入れ込みました。この作品は、『このミステリーが すごい! 2008年版』用に書き下ろしたもので、『イノセント・ゲリラの祝祭』の執筆前に書いていたものです。単行本時は、意図してこの短編をはずして 完成させました。編集からの提案では、文庫のおまけとして、この短編を巻末に収録しませんか、というものだったのですが、思い切って、ひとつの物語として 統合させたんです。ひとつだった物語を別々にわけた『ナイチンゲールの沈黙』と『ジェネラル・ルージュの凱旋』とは、逆のパターンですね。
 文庫 化にあたっては、単行本の文章をかなり減量しました。これは今回の作品に限ったことではありません。削った場所が無駄なのかっていうと、不思議なもので、 オリジナルの単行本では無駄ではないんです。でも文庫サイズになると、どうしてもはみ出てしまう。その部分を削ると、だいたい一割減になります。そこに短 編をはめ込めるのではないかと思い立ち、昨年の夏に死ぬ思いでトライしたんです(笑)。
 でもジグソーパズルのピースをカチッとはめるようにはいかず、結局埋め込んで溶かしてを繰り返し、もう一度作り直しました。だからリライトといってもいいですね。単行本を買った方々も文庫で再度楽しめる作品になったので、ぜひご一読を(笑)。

日本のさまざまな問題点に切り込む

 短編で取り上げた監察医制度ですが、東京23区と神奈川県の観察医制度はかなり違います。東京都23区で死亡した場合は制度がしっかりしていますから、 わりときちっとやってくれますけど、神奈川県はひどいものです。もちろん神奈川だけじゃなく、日本全国がひどい状態なんですが。そもそも日本で制度が敷か れているのが5都市しかなく、そのうちの2都市は機能していないのが現状です。例えば昨年度、東京23区では二千体が解剖されています。神戸市、大阪市は 千体ずつ。ところが名古屋市は十体なんですよ。形骸化してるんですね。しかも本当に解剖されているのか、甚だ疑問なんです。監査する仕組みも、法律もない ので、やる必要もないんです。

書くうえでのモットー。そしてこれから

 作品に対して持っているこだわりは、「面白い話を書く」ということ。これに尽きます。途中で止めることができずに、読んだ人が「本当は明日テストなのに」とイライラしてくれるのが一番の喜びです(性格悪い・笑)。
 作家デビューをしてから、休みはなくなりました。以前は病院がない日を休みと認定していたんですが、そこに執筆やら講演やらが入ってきて、休みは消滅しました。作品を書くことは、変わらず楽しいです。ただ、これだけ書いていたら仕事と呼んでもいいんじゃないかなと(笑)。趣味は、うーん......、今はあまり余計なことをしてないって感じです。連載2本に、構想中の書き下ろし1本。月2回のテレビ出演に月約5回の講演、そして医師業務。とにかく時間がないですね。医師と作家の二足のわらじというより、やらなければいけないことをやっている、といった表現が適切でしょうか。
 今後の田口・白鳥コンビの行方ですか?ずばりAiセンターを作ります!でも現実の世界では、すでに出来てしまってますからね。最近は小説世界よりも現実世界の動きが早い。時間がもっと欲しいですね。

(2010年1月7日 宝島社会議室にて/構成・文:編集部)
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