海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

『海堂ニュース』最新ネタ満載!

2014.09.19 2014:09:19:18:12:30

死亡診断書と死体検案書の区別は無用、または法医学者が信用できなくなった過去の理由と変わりつつある未来について。

 さて、唐突ですが現在、戦後の韓国人慰安婦問題と原発事故における吉田調書における誤報問題における謝罪云々の件で、朝日新聞が存亡の危機に陥っています。

 実は朝日新聞は死因究明に関連しては法医学べったりでAiのことは初期に散発的に取り上げてくれただけで、法医の言い分を支持ばかりしてきました。謝罪しない、訂正しない朝日新聞が、監査なき、情報開示なき法医のサポートをしていると、とんでもない社会になってしまいます。

 このブログと、かつて日経メディカルオンラインで連載していたブログを合わせたものを刊行すべく、過去の文章をブラッシュアップしている最中ですが、その一節に今日の朝日新聞の問題の萌芽と思える記述がありましたので再掲します。もはやネットではこうした記事を読んでもらえなくなっているのが残念です。

 

日経20 朝日新聞社説では、日本の剖検率で病理解剖が無視されている。

 先日、驚くべき朝日新聞社説が掲載されました。冒頭を引用します。

◇ 死因究明ーー監察医を全国に(平成21125日 朝日新聞) 政府はすべての都道府県に死因を究明する医療センターを設立するべきだ。日本法医学会が提言書をまとめた。事件性がないとされた場合でも死因不明の急死や事故などの異状死の遺体を調べ解剖もする。感染症や食中毒の警戒、製品による事故などの対策に役立てるのが目的だが犯罪の見逃しも防げる。遺体解剖には事件捜査のための司法解剖と、それ以外の行政解剖などがある。日本では年間の死者120万人のうち、解剖しているのは全部で1万5千人、1.3%だけだ。欧米の1030%に比べきわめて少ない。(以下略)

 私を取材したジャーナリストが教えてくれたこの社説には、下線部分に重大な間違いがあります。07年の剖検率は2.7%で、1.3%という数字は聞いたことがない。その方の問い合わせに対し朝日新聞東京広報部の正式回答は以下のようなものでした。

「お尋ねの件、論説委員室に確認しました。確かに一般的に日本の解剖数はご指摘の通りですが、社説には『遺体の解剖には事件捜査のための司法解剖とそれ以外の行政解剖がある』と書いたように、ここでの解剖一万五千人、1.3%というのは司法解剖と行政解剖の合計の数字で、病理解剖はカウントしていません。いわゆる不審死に関しての解剖で、社説に書いた日本法医学会の提言書でこういう数字を使っているそうです。この提言書は日本法医学会のホームページで見られるということです」

 屁理屈極まれり、朝日新聞社は不誠実です。傍線部は「日本で解剖しているのは全部で1万5千人」という文章になり、2万件実施されている病理解剖の数を含まないのは間違いです。「一般的に日本の解剖数はご指摘の通り」と言いますが、病理解剖な制度としてきちんと存在しているので、明らかに誤った文章です。メディアは医療現場に「間違いを起こしたら正直に告白し、謝罪せよ」と強要します。報道において医療事故に相当するのは誤報ですから、社説は訂正した方がいい。一市民の指摘に法医学会のデータのせいにしてごまかそうという論説委員の姿勢は大問題です。社説を書く識者が、こんな基礎的な間違いを犯し、指摘をされても訂正しない。医療事故の際、声高に非難するメディアならば、自らの報道ミスに対しても同じ姿勢で臨まなければおかしい。実はこの話は先日「医療ジャーナリスト協会」新年会の挨拶で枕に使いました。百人を越える医療ジャーナリストに厚労省の科学研究費研究内容の惨状やこの問題を語ったのですが、医療ジャーナリストの反応は鈍いものでした。大新聞OBの方も大勢出席されていたので気兼ねしたのでしょうか。

 

 さて、唐突ですが現在、戦後の韓国人慰安婦問題と原発事故における吉田調書における誤報問題における謝罪云々の件で、朝日新聞が存亡の危機に陥っています。

 実は朝日新聞は死因究明に関連しては法医学べったりでAiのことは初期に散発的に取り上げてくれただけで、法医の言い分を支持ばかりしてきました。謝罪しない、訂正しない朝日新聞が、監査なき、情報開示なき法医のサポートをしていると、とんでもない社会になってしまいます。

 このブログと、かつて日経メディカルオンラインで連載していたブログを合わせたものを刊行すべく、過去の文章をブラッシュアップしている最中ですが、その一節に今日の朝日新聞の問題の萌芽と思える記述がありましたので再掲します。もはやネットではこうした記事を読んでもらえなくなっているのが残念です。

 

 こうした市民のささやかな抗議の声を無視してきた傲慢さが、朝日新聞をここまで凋落させてしまったのだと思います。上記記事を読む限り、少なくとも5年前、すでに朝日新聞はジャーナリズムの基本を外した記事を書き、間違いを指摘しても対応しなかったということは明白です。

 世のシステムや組織は、一朝一夕では腐りません。長い年月を掛け、シロアリが家を侵食し、やがて倒してしまうように、兆しはずっと前からあちこちに見られるものなのです。

 

 次回はいよいよ最終回。さて、何を書こうかな。

 

近況です。

1) 週刊新潮『スカラムーシュ・ムーン』、好評連載中。今秋、ついに終了します。

2) ジェイ・ノベル10月号で『医療小説・解剖所見』という特集が組まれるにあたり、エッセー『医療小説事始め』を書きました。ご存じ東えりかさんの医療小説概略も新しい角度からの展開で、なかなか力の入った特集となっていますのでご覧になってください。

3) 上述しましたが8月22日、日本医師会にて「第2回学生・日本医師会役員交流会」で講演しました。70名近い医学生が文字通り全国から参集したのは圧巻でした。

4) 翌8月23日は岡山市民大学で講演でした。久々の四桁、千二百人の聴衆に語ったタイトルは「医療と文学の接点」です。流れはいつもいきあたりばったりなんですが、今回は割とAiメインになったのは、前日の医師会の医学生交流会のせいでしょう。日本の医療の質は高く、特に最近の若手医師はきまじめで優秀だとか、日本医師会が医療を守っているとかいう話もしましたが、一般の方には興味深い話題だったようです。講演会後は久々のサイン会もしました。最近は書店挨拶をやめたので、アクアマリンの神殿のサイン本は希少ですから大事にしてくださいね、岡山のみなさん。

5)9月14日は第55回日本母性衛生学会in幕張メッセ、講演タイトルは「ジーン・ワルツの世界」。タイミングよく、医師会の小児死亡例Ai実施のモデル事業について詳細に語ってきました。1200名近い女性主体の聴衆を前に、久々にちょっと緊張しましたが。

6)10月3日、札幌で「氷点50周年」というシンポジウムで基調講演をします。タイトルは「氷点と半世紀後の日本」です。何だか文化人みたい。

7)10月7日、母校・千葉大西千葉地区の図書館が新装オープンするのに伴い、千葉大学生協でトークイベントとサイン会。母校・千葉大に対するご奉公です。散々悪口を言った東大での講演はいつも教室に入りきれないくらいの満員御礼でしたが、果たして母校の後輩の社会意識や如何。

 今や各大学で自発的に立ち上がり、社会的影響力大のAiセンターという、世界初の画期的なシステムを立ち上げた嚆矢だったのに、それを立ち枯れさせてしまって平気な上層部の先生方が教育している学生ですので、ちょっと心配です。

8)11月3日は宮崎大学第10回清花祭医学部特別講演会で講演予定。タイトルは「医療と文学 二つの天職」です。「二つの転職」という方が正確かも。

9) 11月19日はJT講演会は愛媛・道後温泉。実は愛媛は私がこれまで訪れたことがない唯一の県だったので、これで全都道府県訪問コンプリートです。よし、次は世界だ。

10) 12月5日は放射線医学総合研究所重粒子医科学センターの20周年記念シンポジウムで司会の大役をおおせつかりました。私の講演ではないのでお行儀よくするつもりです。

 

 ぐうたらしようと思いつつも、結構働いているものですね。

                          2014年9月16日 海堂尊

 

 

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