海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2014.09.19 2014:09:19:18:12:30

死亡診断書と死体検案書の区別は無用、または法医学者が信用できなくなった過去の理由と変わりつつある未来について。

 死因を捜査情報としているのは日本くらいだそうです。日本の法医学者が、高い解剖率を褒めそやす北欧の法医学者は、日本で司法解剖の鑑定結果が開示されないと聞き「信ジラレナーイ。ソレデハ司法解剖ノ本来ノ目的ガ達成デキナイカラ、解剖スル意味ガナイデハアーリマセンカ」と言ったとか。

 死因究明制度問題で警察庁は過去、国会議員や法医学者を制度勉強のために海外派遣しましたが、そんな文言は報告書にはかけらも見当たりません。「市民に情報開示しない司法解剖制度は存在意義がない」のだとすると、日本の司法解剖制度の存在意義はなくなってしまう。情報開示は法医学者が本気でやれば簡単にでき、市民の相対的満足度という観点では対費用効果は高い。でも死因究明関連二法案が成立する際、情報開示を明示しない法案を推進した時点で、法医学者に対する信頼は地に墜ちました。自分たちの問題点を解消せずにギブ・ミー・マネーばかり連呼する法医学者にギブ・マネーしたら、よからぬシステムが拡大再生産されてしまいます。「解剖しても死体検案書も鑑定書も書かん」と公言する同業者を放置し続ける法医学者は、モラルハザード集団です。そんな法医学者の言い分を、検証もせずに垂れ流すメディアも同罪です。

 

 私が、死因究明制度の土台としてAiへのパラダイムシフトを提唱し始めた頃は、法医学者も重要な役割を担ってくれると信じ、リスペクトしていました。Aiの研究実績のない法医学者に第2回Ai学会の特別講演をお願いしたのも、ジャンルを超えた協力体制を築きたいがための人選でしたし、母校・千葉大にAiセンターを立ち上げたY副センター長から、センター長の人選について意見を求められた際は、法医の教授を推薦しました。この人事は本人が固辞したため実現しませんでしたが。

 作家デビューした前後に何冊か専門書を出版した際には、法医学者にも症例提供や執筆分担をお願いし、学際的な枠組みを超えた学術領域を作ろうという気持ちを持ち続けていました。

 そんな私が法医学者に決定的な不信感を抱くようになった、あるエピソードがあります。

 

 ある書籍を出版した時のことです。担当の編集さんが青ざめて私のところに相談に来ました。

「ミスをしまして。個人情報を消しそびれた場所があるんです」

 編集さんは自分のミスだと言いましたが、ゲラを見ているので当然、私の責任です。その個人情報は、医療従事者が注意深くみてようやくわかるという類のもので、遺族の方にご迷惑がかかるような記述もなかったので心配はしませんでした。でもそれは、あら探しをするような気持ちでなければ絶対に見つからないようなことだったので、「それにしてもよく見つけたものですねえ」と感心すると、驚きの返事が返ってきました。

 なんとそのことを発見したのは症例提供してくれた法医学者で「遺族に大変なご迷惑になるから書籍を回収し、新聞に謝罪広告を掲載せよ」と大騒ぎしていると言うのです。遺族がご立腹ならやむをえない、その時は責任を取って文筆の世界から消えることも瞬時に覚悟をしてから、よくよく話を伺うと、その法医学者も遺族と接触はしていないらしいので結局、編集者とはしばらく様子を見ようということにしました。

 数日後。編集さんが晴れ晴れとした顔でやってきて「問題は解決しました」と言いました。その症例は事件絡みで報道されていたので、遺族の住所を調べて直接謝罪に行ったのだそうです。遺族は最初はご立腹の様子でしたが、誠心誠意の謝罪と、書籍の出版意義を説明したところ理解してくださり、最後には「Aiは社会にも大切なことなので今後もがんばってください」と勇気づけてくださったそうです。そして過分にも私と情報提供した法医学者もお気遣いくださり、2人が不利益にならないようにしてください、とまでおっしゃってくださったのだそうです。

 私は感動し、同時にAiの普及活動に邁進しようと思いました。そうするしか罪滅ぼしはできません。その個人情報は指摘されなければ、一般読者はまったく気づかない類のもので、重版も決まったので次は直せると思ったから、遺族が納得してくだされば問題は解決したも同然です。

 ところが遺族問題は解決したと知らせても、法医学者はクレームを続けました。そこで事情説明のため教室に行くと、なぜかその場に、法医学者と共著を執筆したライターが同席していました。今回の件とはまったく無関係な第三者を同席させるのも非常識な話ですが、そのライターは私とも面識があったので、咎めませんでした。

 法医の教授は「本当にご遺族が納得したのか」と繰り返すので、編集さんが直接遺族と会って謝罪し許していただいたと伝えると絶句しました。まさか直接遺族に謝罪したとは思ってもいなかったようでした。「死者に対しては個人情報保護法は適用されない」という事実もお伝えしましたが、それでもぼそぼそとクレームを続けました。でも結局、遺族の心情が大切だから本を回収しろ、という法医学者の根拠は消滅したのでクレームのつけようがなく、事態は終息したのでした。同席したライターは会話にはひと言も加わりませんでした。何のためにその場にいたのでしょう。そして法医の教授はなぜそのライターを同席させたのでしょう。ずっと謎でしたがある日、その謎が解けました。

 

 実は民事裁判の判決直前に「週刊文春」から取材された際、取材ライターが書籍の個人情報問題の件を持ち出してきたのです。記事にするには裏打ちをしてくれる情報提供者がいなければならない。事実を知るのは担当編集と症例提供したアンチAiの法医学者と共著者だけ。週刊誌取材で当てられたということは、情報提供者は法医学者か共著者のどちらか、あるいは両者でしょう。このことが蒸し返されたら困るのはご遺族ではないか、と内心憤慨しましたが、経緯を説明し、問題は解決しているから、報道した場合は週刊文春に対し徹底抗戦する、と冷静に伝えたところ、週刊文春編集部はさすがに良識を発揮したのか、その部分は記事になりませんでした。でもそのことで、かつて法医の教授が無関係のライターを同席させた意図がわかった気がしました。週刊誌を焚き付け、私のスキャンダルを掲載させようとしたのでしょう。

 結局、『男と女のスキャンダル』という興味本位の特集記事の一本に、私の言い分とAiアンチの解剖医たちの私への悪口という、ジャーナリズムの基本を外したお粗末な記事が掲載されました。裁判に訴えた原告が取材に応じないのに、訴えられた側と訴えられた人間の悪口を言う取り巻きの発言で記事を作るなんて、雑誌としての矜恃を見失っています。

 

 でもまあ、これは大昔の済んだ話です。ここで改めて言おうと思った理由は、海堂ブログを閉じるにあたり法医学者の中には「遺族の心情を傷つける」ことを心配し書籍の全面回収を要求しながら、私を貶めるためには遺族の心情も配慮せずにメディアを使おうとするようなことができる人物がいた、ということです。そしてその法医学者は講義の時や講演会では私への誹謗中傷を繰り返し、Aiにも拒否反応を示し続けているのだそうです。とは言っても、ここまでなら個人的にとんでもない法医学者がいるもんだ、という笑い話です。彼のAiに対する反感は、法医学分野に入るお金がAiに流れてしまうことを恐れているかのように見えますが、そうした事情をメディアも理解したのか、当初はその法医学者の、Aiについての的外れな誹謗発言が週刊誌などに頻繁に載ったものですが、最近は撲滅されたようでひと安心です。この文章を匿名にしたのも、Aiを守れれば後はようようどうでもいいというのが私のスタンスで、法医学会の是正など目指していないからです。

 

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