海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2014.09.19 2014:09:19:18:12:30

死亡診断書と死体検案書の区別は無用、または法医学者が信用できなくなった過去の理由と変わりつつある未来について。

 それでもまだ医療現場では、死因情報は病理医から臨床医に還元されますが、警察の現場だととんでもないことになってしまいます。警察の依頼で検案する警察医が死亡診断書を書き、その後司法解剖されても、その結果が警察医に伝えられないという都道府県があるのです。たとえば名古屋市は監察医制度のある5都市の一つですが、愛知県警は警察医に死因を伝えないのだそうです。愛知県警ではそんな風に死因情報の流通性が低いからこそ、警察庁長官をして謝罪せしめた、時津風部屋事件の舞台になってしまったのでしょう。

 

 ざっくり言えば日本では病院で8割、警察で2割、遺体を扱っています。病院以外の症例は警察が扱うケースがほとんどですが、ここでの死亡診断書に関するシステムは滅茶苦茶です。死体検案書は警察協力医(地元の開業医が多い)も書くし、解剖した法医学者が書くこともある。ところが司法解剖しても死体検案書や鑑定書を書かない、と公言している法医学者もいるのだそうです。死亡診断書の記載は医師法で規定された、医師の四つの義務のうちの一つですので、そんなことを言う人は、医師免許を持つ資格はありませんし、そんなメンバーを放置し容認している法医学会には大いに問題あり、と言えるでしょう。

 警察医は臨床医が警察から委嘱されますが、解剖はしません。だから警察医が書いた死体検案書が、解剖で判明した死因と違うことはあって当然なのです。ところが最近「解剖もしない医師が死体検案書を書くのは医師法違反だ」という、とんでもない鑑定書を医療事故訴訟で書く法医学者がいるのだそうです。それがどれほど理不尽な論理かは、日本の死因究明制度と死亡診断書・死体検案書の問題を読んでこられた読者にはよくおわかりでしょう。こうした問題は現場の医師が指摘しているのですが、それでもなお延々と、そんな非常識な主張をし続けるのが法医学者という人たちなのです。

 

 昔、といっても私が医師になってしばらく後なので、さほど大昔でもありませんが、その頃、解剖で死因が変わった場合、死亡診断書を再請求し、自分の名前で書き直し再提出する法医学者がいました。飲み会で本人がぽろりと口にしたのでおそらく事実でしょう。そうすると文書を提出した主治医の承諾なく内容を書き換えるわけで、おそらく有印私文書偽造になるでしょう。

 問題はそれだけではありません。法医学者が書き直した死因が正しいかどうか、誰もチェックできず、法医学者がでたらめな死因を書いてもわからないのです。

 死亡診断書に関し役所や警察関係者は相当いい加減に対応してきたんだということがわかり、つくづく呆れ果ててしまいます。

 臨床医が解剖所見を加味せずに死亡診断書・死体検案書を記載するのは社会システム上仕方のないことです。ですので前述の法医学者は「解剖せずに死体検案書を書く臨床医」に対し的外れな非難をする前に、まず「司法解剖しても死体検案書は書かないと宣言している法医学者」を糾弾すべきです。

 加えて法医学者は学会の総意として司法解剖の情報開示を決めるべきです。捜査情報という城壁に隠れ、警察となれ合いで情報を開示せず、きちんとした仕事をせずにごまかし続けてきた結果、司法解剖の質は無惨に低下し、冤罪やデータ捏造といった不祥事が多発する。

 情報開示しようとしない法医学者は信用できない。みなさんもこの一点は押さえておいてください。すると法医学教室にギブ・マネー、とばかり叫ぶ法医学者の姿が醜悪に見えてきますが、実はそれは正しい認識なのです。

 

 私の批判には必ず対案があります。この問題の解決はシンプルです。

 まず、死因は捜査情報ではないというコンセンサスを周知させることです。司法解剖の死因情報を非開示にしていることが、捜査現場と司法解剖担当の法医学者がなれ合いでいい加減な仕事をするための隠れ蓑になっているからです。そして死亡診断書から解剖所見を外し新たにAi所見の項目を加える。「死亡診断書・死体検案書」は、非破壊検査である検案情報で記載され、破壊検査である解剖情報は検査のタイムラグがあるゆえに、公文書である「死亡診断書・死体検案書」の中身には情報が反映できません。Aiは検案と同じカテゴリーに属する非破壊検査ですので、その情報は「死亡診断書・死体検案書」に反映させることができる。

 解剖については、「死亡診断書・死体検案書」の記載から外す代わりに、新たに解剖診断書といった書類を別途作成し病理医、法医学者に提出を義務づける。

 こうするためには、死因は捜査情報ではないというコンセンサスが必要になる。死因を捜査情報から外し社会に適宜、情報開示することは、「市民社会のメリット」となり、「いいかげんな仕事をしている捜査関係者」や「だらしない仕事をしている法医学者」のデメリットになるのです。

 

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