「この本が書店員の一番売りたい本」と言った瞬間、書店員の矜恃を競りにかけ、一番高値で売り渡したわけです。それならば、これまで先達が築き上げてきた信頼を含めて、書店という言葉が持つ文化的な信頼を切り売りした値段ですから、これくらいの注目は浴びて当然でしょう。
最後にひと言。
本屋大賞の成功、おめでとうございます。本屋大賞加盟店のますますのご発展をお祈り申し上げます。「一番売りたい本」に値しなくて申し訳ありませんが、それでも楽しみにしてくれている読者のために、私の本も書店の片隅に置いてくださいね。
さよなら、大好きだった本屋さん。
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さて、もうひとつの話題は久方ぶり、「死因究明制度について」です。
毎日新聞4月3日付の記事で、『<横浜市の監察医>解剖、一人で年3835件......質確保に疑念』という記事が反響を呼んでいます。
横浜市は日本で五カ所しかない監察医制度が敷かれている地域ですが、横浜市内の開業医が監察解剖の98%に当たる1673件を、さらに承諾解剖についても89%の2162件を行っていた、というものです。
こうしたデータは情報公開法によって初めて明らかにされたものです。そして東京都監察医務院の福永院長は、「一人で頑張ってできる解剖は年間三百例が限界」と語っています。
実はこの問題、私はAiを提唱した直後の2002年くらいから知っていました。
データの裏付けはありませんでしたが、当時から法医学者ですら憤っていたことを目の当たりにしています。
上記の法医学者のコメントからは、年3500体はいいかげんな解剖が実施されていた、という結論になります。だとすればとんでもないことだということはおわかりでしょう。
私もこれまで、あちこちの講演会で、横浜市監察医務院の問題点はお話ししてきました。
問題は、解剖がきちんと行なわれている担保がなく監査ができないこと、さらに問題なのは、この監察医がいい加減な解剖をしても罪に問う法律がないことです。
法医学者が実施する解剖は治外法権状態にある。そんなことがまかり通り、放置され続けているということ自体、法治国家である日本では異常なことです。
今回の毎日新聞の記事はスクープとして素晴らしいものでした。ですが法医学会の方たちはみんな、この事実はよくご存じだったのです。知りつつ、頬かむりをし続けていた。
この問題を現場の法医学者はみんな知っていたのに、何も変えようとしなかった。