海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2013.04.25 2013:04:25:19:49:13

自民党政務調査会、第一回死因究明体制推進に関するプロジェクトチームで講演を。

 自分でも呆れてしまうのですが、こういう憎まれ口を叩きながらも、私はまだこころのどこかで、政治家や官僚の方たちの良心を、そして意志を信じたいと、ぎりぎりのところで願っているようなのです。

 

 

 

死因不明社会を解消するーその第一歩として小児虐待抑止のために小児死亡全例にAiを

独立行政法人放射線医学総合研究所・重粒子医科学センター・Ai情報研究推進室室長  海堂尊

 

1 日本が死因不明社会になったわけ

 日本が死因不明社会になったのは、死因究明制度の目的と手法が時代にそぐわないためである。解剖の実施総数は減少し続け、2010年の司法解剖数は8014体、行政解剖は1万1069体。病理学会剖検輯報に登録された病理解剖数は2012年で1万3783体にすぎない。

 一方、死者は2008年が114万人だったのが、2012年は124万人と激増している。このように死者数が激増する中、実施総数が減少し続けている解剖を主体とした死因究明制度に固執し続けると、日本の死因究明制度は早晩破綻してしまうだろう。

【手法の問題点】

 日本の死因究明制度は解剖がベースだが、解剖は実施率は3%以下である。施行率2%台の検査を制度の土台にしたらシステムは稼働しない。解剖は遺体を損壊し、現状が破壊され再検査ができない、遺族の心情を害する等の欠点もある。実施人員も警察関係で法医学者が百余名、医療関連では病理専門医が二千名弱と少数でかつ、法医学者と病理医の間には社会制度上の連携はない。

 捜査現場で実施される司法解剖は、経費は支払われるが、市民に対する情報公開の原則がない。

 医療現場で実施される病理解剖は、遺族への説明はされるが、費用拠出がされていない。

【目的の問題点】

 解剖を実施しても死因判明率は80%、5人に1人は死因が判明しないため、死因究明制度の目標を死因の究明自体におくと、絶対到達できず、評価は適当になってしまう。

 

2 死因不明社会解消のための処方箋

 死亡時画像診断(Ai)とは遺体にCT、MRI等の画像診断機器を用い医学診断することである。日本には2011年現在、CT1万2420台、MRI6155台が設置されている、世界に類をみない画像診断機器インフラ大国である。そのため適切な実施費用を投入し、Aiを優先実施するシステムを構築すれば、Ai実施数は爆発的に増加するだろう。

【手法の解消策】

 Aiを優先実施する死因究明システムを構築すれば、死因不明社会は解消される。Aiは非破壊検査なので解剖の前に実施しても解剖に悪影響はなく、むしろ事前の医学情報が増えプラスになる。Ai診断は臨床医や放射線専門医が行い、結果は遺族と市民社会に公開されるシステムを構築すればよい。

 また、警察が扱う異状死体の初期検索には検死官による検視が、医師の立ち会いの下実施され、その後医師が検案を実施、死体検案書を作成する。この流れに従えばAiは検視領域ではなく検案領域に置かれるべきだろう。診断業務が医師にしかできないので当然の結論である。しかし現在、警察主導で実施されているAiに関しては、情報が検案医に伝えられないという状況が出来している。それは捜査情報非公開の原則という壁により出現した問題点だが、死因を過度に隠匿すれば死因不明社会は助長される。

 死因は捜査情報ではないというコンセンサスを徹底させれば、すべての状況は好転するだろう。

【目的の解消策】

 死因究明の目的を、「死因究明」から「遺族と市民社会の納得」とシフトする。最強の死因検査法である解剖でも死因究明率が八割しかない以上、「死因を必ず究明する制度」は実現不可能である。「遺族と市民社会の納得」という目標は、死因が究明できなくても達成できる。死因究明率はCTで三割、MRIで六割と言われ解剖より低いが、死因が判明しなくても、事件性は低いと判明すれば納得する遺族もいるだろう。市民社会が望む、こうしたきめ細かい対応は、旧来の解剖主体システムでは実現できない。

 

3 第一歩として、小児死亡例全例にAiの実施を

 日本では十四才以下の小児は年間五千名亡くなっている。一部は肉親による虐待死だが実数は不明である。しかも虐待所見は解剖では見落とされやすい。診断基準の所見「昔の骨折痕」は解剖では検出できず、司法解剖が虐待の証拠を見逃した実例もある。また愛児を亡くした直後の遺族に遺体を損壊する解剖を申し出ることは医療従事者として大変な精神的ストレスとなるし、事件性が確信できなければ強制できない。実際、虐待した両親の八割は解剖要請を拒否しているという報告もある。しかしAiならこうした問題は解消する。全例実施とすれば、虐待を疑われているという両親の疑念も解消される。 

 小児科学の領域では死亡例は全例解剖すべし、という金科玉条が謳われてきたが、現在の社会ではこれは実施不可能である。だがAiならば全例実施は実現できる。検査料は年間二億五千万円、周辺システムの整備を併せても年間五億円あれば日本全国の小児死亡例全例のAi実施、ならびにデータ集積システムの構築が可能である。ちなみに東京都監察医務院は、東京都二十三区内の異状死解剖を引き受けているが、予算額は年間約十億円と仄聞する。その半分で日本全国の小児の死亡症例に対する、地域格差のない均質な検査が可能になるのである。

 2009年、日本医師会は「小児全例にAiを実施すべし」と提言し、2011年5月には厚生労働省によるAi検討会においても同様の提言が、参加委員全員の同意を得て最終報告書に盛り込まれている。 

 小児死亡例全例にAiを、という提言は今や国民の幅広い支持を受けていることは間違いない。

 

 

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