海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2011.05.20 2011:05:20:22:32:34

法医と警察はAiただ乗りを強行するつもりなのかしらん。

 根源的な、死因に対する社会公開原則についても言及していません。法医学者の決まり文句は「死因は捜査情報だから公開できない」というものです。今の死因不明問題の大部分は、ここに生じた闇に端を発しているのですが。公開しなければ監査もありません。すると制度は腐敗します。

 

 これまで法医学者が警察捜査のミスを指摘したという内部告発は、ほとんど聞いたことがない。ミスのないシステムはありえないので、ということは捜査ミスが見逃され、結果的に冤罪や犯罪の見逃しにつながっているわけです。解剖という、本来捜査を監査すべきシステムが、警察べったりのため、市民のためではなく、警察のための制度に堕しているともいえるのです。

 

 法医学会の身を切るような自己批判もなく、ただ制度がダメだから新しいシステムと建物をつくりたいのでギブ・アス・マネー、と周囲の状況を顧みず、自分たちがのぞむ「あるべき姿」だけを声高に言い立てた提言です。ここまでいくと、バケツに穴が空いているのに、水を入れろなどと言う、とんちんかんな提言ですね。

 

 画像診断にもほんの少しだけ触れています。提言から引用しましょう。

 

『死後画像検査の積極的な活用』(報告書より引用)

 CTによる死後画像検査は、脳出血、くも膜下出血、大動脈解離、大動脈瘤破裂などの出血病変や骨折等の存在を一定程度明らかにすることができるので、死因の解明に有益である。また、死因が解明されない場合であっても、CT検査により体内の異常が判明することから、解剖の要否の判断や解剖の精度の向上に資するという効果もある。したがってCT検査を死因究明のための効果的な捜査手法のひとつと位置づけて、その積極的活用を図ることがのぞましい。ただし、CT検査のみでは死因の判断に誤りを生じる可能性があるので、簡易薬毒物検査等の各種検査や、警察による周辺捜査による結果を踏まえて、解剖の要否を総合的に判断することが必要であることは言うまでもない。

 

 ここだけ読めば、まあ妥当で、警察庁もAiの意義を理解し始めているな、と少し安心します。Aiという用語を使わないのは、法医学者のAiアレルギーのなせる技ですが、結果的に世界的潮流へのアンテナが鈍くなり、時流に遅れた提言になってしまったのは、悲しむべきでしょう。

 

 最たるものが、Ai(死後画像検査)をCTに限局している点です。Aiという用語を用いれば、MRIも当然入ります。すると提言の内容はがらりと変わる。

 

 なぜそうならかったかと言えば、法医学分野では画像診断の進歩はCT止まりだからです。医療現場では当たり前の検査・MRIの知見に乏しく、医療現場と協調関係も取れないので、MRIについて提言できないのです。

 

 日本放射線学会が公式用語として使用しているAiという用語を、自分たちの専門外分野であるにも関わらず頑なに拒絶する。そうした法医学会上層部のメンタリティが、市民社会に暗い影を落とすことになる。拙著『ゴーゴーAi』はそうしたウイルスに対するワクチンですので、病気で倒れたくない市民のみなさんは服用してみてくださいね(笑)。

 

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