海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2011.01.17 2011:01:17:13:09:08

法医学とAi、そして厚生労働省Ai 検討会の顛末

 2つめは、本来法医学者がみるべき症例がAiで片付けられ、問題あるもののみしか法医学者に届かなくなると、見落としにつながるということです。法医学者あやしい症例から、本当に問題のあるものを抽出することが腕の見せどころです。

 

ここを担当しなければ法医学者の存在意義はない、何よりもそういう部分に法医学的視点が必要で、法医学者が貢献しなければならない。危惧するのはAiには画像診断能と法医学的視点が必要ですが、前者が強調され法医学者が貢献しなければならない部分からはじきだされる点です。放射線科医がAi所見をとるのは大切ですが、最終的には法医学者が法医学的な視点で診断し、必要がないといえない限り解剖すべきではないかと考えます。

 

 

海堂:一番目は法医学分野として当然の判断ですが、問題は二番目です。「法医学者の腕の発揮のしどころは、あやしい症例から本当に問題ある症例を抽出することで、ここを担当しなければ、法医学者の存在意義はない」という記述は非の打ち所のない記述ですが日本の現状に当てはめると、とんでもない結論になる。

 

日本の司法解剖制度では「(一部の監察医制度設置地域を除き)司法解剖担当の法医学者が検視に立ち会うことはほとんどない」のです。藤田先生のロジックでは日本の法医学者のほとんどは本来の存在意義が少ない方になる。「あやしい症例から、本当に問題のあるものを抽出する」ことが業務なのは東京都二十三区内、大阪市、神戸市の監察医務院に勤務する法医学者に限定され、すると地方勤務の法医学者は「法医学者としての存在意義はない」ことになる。

 

 

でもそんなことはありません。司法解剖を行なう地方の先生は立派な法医学者です。「Aiを行ない、こじつけの解釈で結論が出されて解剖されない場合が出てくると危惧」するよりも、「検視だけで解剖の適否を決めていること」の方が問題で、地方の実態を考えると一刻も早くAiを導入し、そしてそれに国家的な費用拠出を確定することが何よりも大切なことです。そうしないと、医療現場がただ働きさせられて、いっそう疲弊してしまいます。

 

 

地方では解剖実施判断をする業務は藤田先生も前述したとおり警察医が行なっていて、大半は地元の開業医です。ならば「Aiを医療現場で行い、費用は医療外から医療現場に支払われる」というAiプリンシプルは、統一された死因究明制度の骨格として唯一の正解になる。法医学者はAiの一次判定から手を引き、放射線科医に完全委託するべきです。

 

 

藤田;情報公開の原則は基本的に捜査第一と考え、その中で支障がない場合に遺族の心情や公益性(事故の再発予防など)を考慮します。事件の場合は支障がないと思っても、後に重要な証拠であることがわかったりするので法医学者は我流では情報公開はしません。そしてAiに関しては、解剖結果と照らし合わせ、両方を用い表現する場合の解剖の補助ツールとして使うので、必ずしも放射線科医が必要というわけではありません。アドバイスがいただけるものなら、それに越したことはありませんが。

 

 

海堂:「Aiを新しい解剖の補助ツールとして使うので、必ずしも放射線科医が必要というわけではありません」という発言には驚きました。Aiを思いついた私は元外科医で、そこそこ画像診断の素養がある病理医でしたので、読影はできましたが、この診断は専門家の放射線科医にお願いしたいと思いました。法医学者には臨床経験がない先生も多く、画像診断の素養がない方も多い。大変危険な考え方です。

 

法医として情報公開に対し原則がない、というのはまずいですね。問題なのは法医領域のAiは読影される保証がなく、情報公開されない点です。法医学分野で画像診断のパイオニアと目される某大学の教授が、日本医師会の検討会という公式の席上で、「診断レポートは作成していません」と公言し、同じ場で放射線科医なら一目で見抜ける骨折を、自ら提示した画像で見落としていたという事例もあります。画像診断を誤診しても、誰もチェックできない。法医がAiシステムを構築すると監査システムが機能せず、誤診してもわかりません。社会システムとしても、避けるべきだと思うのですが。

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