海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2011.01.17 2011:01:17:13:09:08

法医学とAi、そして厚生労働省Ai 検討会の顛末

 その後も、重粒子医科学センター病院Ai情報研究推進室のオブザーバーが「解剖との比較検証については、もう結論が出ているのではないか」と述べ、改めて木ノ元氏がモデル事業にかかわった立場から「どのように活用するか、具体的な中身が全然見えてこない。非常に違和感がある」と反論。いったん門田座長と事務局で預かり、検討することになった。

 

 一方、費用負担に関する書きぶりについては、「費用を出したくないというメッセージばかり出ている」との指摘が出たほか、具体的な金額や、費用を支援するという国からのメッセージを示すべきとの要望が寄せられた。門田座長は「もう少し積極性を示した文書を出したいというのが皆さんの気持ちだと思う」と述べ、これについても事務局と預かって検討する考えを示した。事務局は「政務官とご相談する中で対応させていただきたい」と応じた。

 

年が明け、すぐ検討会が召集されると思いきや、日程調整がつかないとかで早くて二月下旬、遅ければ三月にずれこむとのこと。議論をまとめた答申案も回ってこない。遅い対応ぶり。こうやってこちらを遅延させている間に、予算を医療安全調査機構につける算段をしているのか。この推測は予算執行が明らかになった時点で判明するでしょう。

 

続いてはお約束、慶應大学医学・法医学教室の藤田眞幸先生からの返信メールです。申し訳ないのですが文章が長いので、主旨を曲げずに縮圧させていただきました。私の文章に対する藤田先生のお返事ですから、主旨を掲載し、その後に私の意見を添えます。

 

これで現役の法医学者との往復書簡が成立しました。こうした申し出は東大病理学教室の深山教授にも再三再四、提案したのですが、残念ながら結果はご存知の通り、一切議論をせず、民事裁判へ提訴となりました。私の文章に抗議した方は若干名いますが、その方たちはこうした申し出を受け、ある方はメールのやりとりで、またある方は誌上掲載の対談という形で決着をつけています。こうしたことは、名誉毀損裁判ではなく、公開の場での議論で可否を世に問うのが、アカデミズムとジャーナリズムの基本と思うのですが、いかがでしょう。

 

 

 藤田;私は、現行の検案のみで医学的所見をとるのは不十分で、Aiと薬毒物スクリーングは不可欠と思っています。ただAiの情報による診断や解釈の限界を心得ておくことは重要です。そうしなければ本来解剖が必要なものが、Aiだけのこじつけの解釈で結論が出されて解剖されない場合が出てくると危惧されます。現行の解剖率ではAiの限界を心得て実施すれば、「このAi 所見をみると疑わしい面があり、解剖して確かめないと」という理由で解剖例が増えるはずです。

 

 なお私が先生に言った「Aiが法医学分野から引き剥がされると法医が干上がってしまう」という部分は、実は法医学者にとってたいした心配ではありません。検案だけで済まされる異状死体のほとんどは、法医学者ではなく警察医が担当しています。法医にくる異状死体(検案+解剖)は、2025%程度ではないか。Ai導入によって警察医が警察Ai医にかわるだけですから、法医の仕事がAiによって減るということはないと思います。

 

 

海堂:「本来解剖が必要なものが、Aiを行ない、こじつけの解釈で結論が出されて解剖されない場合が出てくると危惧される」という指摘はもっともですが、解剖率2%台の状況下では、「本来解剖が必要なものが、検視だけのこじつけの解釈で結論が出され解剖されない場合が多い」という現状の方が問題で、そこがAi導入の最大のメリットです。導入後の心配より、導入のメリットを語るのが、社会体制を維持する人々がなすべきことだと思います。

 

 

 藤田;Aiをしなければ法医は衰退します。Aiには、非破壊検査のナビゲーションの有用性や、解剖で失われる形態所見(多発骨折など)の保存に有用でAi導入は法医解剖にも導入しなければ、時代に取り残されてしまう。

 

 

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