海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2010.08.27 2010:08:27:19:49:33

ついに厚生労働省「死因究明に資するAiの活用に関する検討会」で講演。

 さてこの検討会、爆弾発言がありました。法医学会代表の池田教授が、日本の司法解剖はレベルが低いと公言されたのです。メディアも一般傍聴の方もいらっしゃる公開の場の発言ですので驚くべきことで、私はメイン業務の解剖でさえそんなていたらくだったら、専門外のAiはまったく無責任に扱われてしまうだろうと確信しました。

 池田先生の発表後に弁護士の木ノ元先生が質問したのですが、資料添付された「司法解剖標準化指針2009年度版」について、やっと2009年に標準化されたということなのかという問いかけに、池田先生はそうだと答え、さらにそれを受け、木ノ元先生が司法解剖の実例として、「頭部を開検しないのに死因を窒息と結論づけたり、時間も予算もないといって鑑定書を作成しない法医の先生もいる」と指摘しました。ひどい話は続き、「鑑定書」を要求したのに提出されたのは「解剖報告書」というペラ一枚、必要なら口頭で答えるという先生もいらっしゃるとか。「医療水準という言葉と対比すると、法医の水準が問題あるという事態によく遭遇する」との厳しい指摘でした。具体的な指摘をされ、池田先生も誠実な方ですのでつい本音を漏らし、「司法解剖のレベルが低く、それでよしとする不届きな法医学者もいるから、急いで標準化指針を作った」という実情を曝露してしまいました。

 本業である解剖でさえも、そのように質の低い検索が混在することを容認する法医学会に、専門外のAiは任せられないという私の意見は、傍聴した多くの人にすとんと納得していただけたのではないでしょうか。ところが後日なされたこの検討会のメディア報道には、池田教授の勇気ある発言は一言も掲載されませんでした。私が記者なら、池田先生のご発言を記事にします。衝撃的事実ですから。ジャーナリズムって何なんだろう。数日後の読売新聞一面に、最近は予算請求前になると定期的に打たれる「法医学者を増やそうキャンペーン」が大々的に展開していたようですが、こうした批判部分には沈黙し、ただ人数が足りないから増やせでは、悪い部分まで拡大再生産されてしまうことを、メディアは自覚すべきです。人が足りないから法医学は衰退しているのではなく、不透明でレベルの低い仕事ぶりが社会からノーをつきつけられているのかもしれません。法医学者を増やすことには私も賛成します。ただ条件があって、Aiは専門家の放射線科医に任そうキャンペーンも同時に行っていただきたい。さもないと大新聞を初めとする主要メディアは法医学をひいきしている、と思われかねません。

 

 というわけで念願を叶えた私は、八月中、ずっと引きこもり「死因不明社会2」の執筆にひたすら励んでいました。実はまだ終わっていない。十年間のAiの活動を詳細に、微に入り細を穿ち、あらゆる資料を駆使して再現しています。いやあ、これが実に面白い。いや、危険かな。でも、ミステリーよりよっぽど面白い。こういうのを見ていると、人の心こそミステリーだと思います。あ、でも「アリアドネの弾丸」も同じくらい面白いですが。文庫版『ジェネラル・ルージュの伝説』でも予告したとおり、「死因不明社会2」の可及的速やかな出版を目指して、鋭意努力中。今しばらくお待ちを。いや、でも本当に面白いんです、コレ。

 

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