海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2010.01.08 2010:01:08:19:37:27

法医主導の「死後画像」には「診断」がない

 「診断せずに画像さえ撮ればいい」というのが、これまで接してきた警察関係者のAiに対する基本スタンスでした。そう考えると法医学者は「医療関係者」ではなく、「警察関係者」の立場に近い。だからこそAi画像診断という分野が持つ、医療的、医学的な意味を、法医学者に理解してもらい、適切に対応してもらわないと、Aiの社会導入の際にとんでもないことになってしまう。今や法医学者は、「Ai」という用語を使わないという申し入れをしている気配があります。法医学者のみなさんの発表を注意して観察してみてください。法医関連の画像は、死後CTという用語に落とし込もうとしているのがありありと分かる筈です。

 昨年10月、スウェーデン大使館が主宰した「ヴィジュアライゼイション・セミナー」があり、そこで千葉大Aiセンター副センター長の山本先生が講演されました。スウェーデンでもヴァーチャル・オートプシーという用語でAiと同様の概念が進展していることがわかりました。そしてスウェーデンの人たちもAi センターでの施行にとても興味を抱いていました。

 スウェーデンの技術も紹介されましたが、それを見たある法医学者は「日本はスウェーデンにはとても敵わない」という感想を抱いたそうです。日本の画像診断の最先端を知らないため、そうした感想を抱いたわけですが、無知って罪ですね。だって日本の技術の方が遥かに進んでいるのに、それを知らないでただ外国は凄い、と感心しているばかりなんですから。同じセミナーを見た画像診断の専門家は「日本ですでに行われている技術をこうやってプレゼンすれば外国にアピールでき、日本の技術基盤を元にした新しい産業を興すこともできるのか」と感心していました。

 Aiに関しては日本が最先端国ですから、法医学者たちは海外の発表に目を眩ませることなく、まず日本国内にいる画像診断の先生方にお話を伺うことをお勧めします。そうしないと誤った形でAiが社会導入され、それは結局、医療現場と社会にデメリットをもたらすことになるでしょう。Ai導入の必要性だけを社会に刷り込み、あたかも法医学者がAi読影をできるという誤解を潜在的に見せれば、現場では医療施設がAiを行わなければならない状況にさせられます。しかも法医学者が、Aiは診断しなくていい、というすり込みを同時に行うわけですから、診断料なんか発生しなくなる。それでは医療現場がいよいよ疲弊させられてしまう。

 法医学会は、「異状死は全例解剖せよ」と主張をしています。その発想でいえば、「Aiは全例診断せよ」というのが当然でしょう。そして、その画像診断をするのは放射線科医です。もし法医学者に医師としての常識と良心があるなら、法医学教室で発生したAi画像はすべて外部の画像診断システムにコンサルトするでしょう。診断なきAi画像は社会的に意味のない、主観的かつ恣意的なものだからです。

 こうした社会の流れに対応すべく、2009年12月、画像診断医の有志が『Ai情報センター』を創設しました。遠隔画像診断でAi画像の診断を中立的組織で行おうというものです。これにより、上記の近畿大や群馬大の法医学教室主導の「根無し草画像」は、このシステムに診断依頼することでしょう。もし法医学者が客観的かつ中立的な医学鑑定を望む良心的な人たちであれば、の予想ですが。

 将来、放射線科医の読影がされないAi画像は証拠として採用されない、ということになるでしょう。近畿大法医学教室や千葉大法医学教室のAiのように、専門外の法医学者が読影もせずに取り仕切った画像は、社会的・医学的信用度がゼロになることは、医療従事者の眼から見れば一目瞭然です。それは単なる記念撮影と変わりません。

 私が法医学会上層部だったら、こうした動きに対してこう言います。「Aiで専門の先生が診断してくれるシステムを造ってくれるのですね。有り難いので法医学会としても全面的に支援、協力させていただきます。何しろ我々は本業の司法解剖をこなすことで手一杯ですから、本当に助かります」

 実はこれは私の言葉ではありません。学会上層部ではない、現場の法医学者の先生たちの声です。私はそうした、現場で業務に励んでいる法医学者は尊敬しています。しかし一部法医学者が、専門外のAi についてあまりにも的外れな批判を続けるので、画像診断部分、つまりAiのところだけ専守防衛しているわけです。


 こうしたシステムを構築すると、必ず旧抵抗勢力(解剖関連学会上層部と、Aiを導入したくない放射線学会の一部上層部の人たち)が、やれ、画像診断の死因究明率が低いから必ず解剖せよ、とか、法医関係の画像診断は責任がかかるからやりたくない、とか、死因を見逃したらどう責任を取るのだ、とか泣き言を言ったり恫喝したりします。この点は、事前に周知徹底しておけばいいのです。

Aiは画像診断なので診断能には限界がある。Ai で診断がつかなかった場合は解剖を適用する」

 Ai 読影で診断が不確かだったら「解剖が望ましい」とコメントすればいい。これでAi診断に関する責任問題は回避できます。放射線科の先生方には、そうした責任問題を不安に思っている方が多いのですが、対応原則さえ打ち立てれば、問題は解消します。

 無責任だ、と法医学者は言いそうですが、そんなことはありません。Ai は検案の補助検査であり、現状は不充分な検案で解剖の適否を決定するシステムを法医学者は長年許容してきました。検案よりはるかに精度が高いAi で解剖の適否が判断されることに異存はないはずです。これまでなら無条件に解剖に回るものが、たとえば CTで脳幹出血が明瞭になった場合は、解剖を論理的に回避できる。これならAiの死因確定率が低くても、法医学者としても万々歳でしょう。そのような協力を医療現場がするのなら、当然診断費用は支払われるべきです。良識ある法医学者ならば、自分の画像診断能力を客観的且つ冷静に見極め、専門家へのコンサルト・システムの構築に全面協力してくれることでしょう。

 逆に、Aiという専門外領域技術が、司法解剖を助けようと、専門家たる放射線科医の有志が動き出しているのに、「画像診断は解剖の代替にはならない」などと援軍を否定する主張ばかりを繰り返す学会上層部の姿を見ていると、そういう天上天下唯我独尊の集団に無批判に貴重な税金を投入しても、結局は問題改善されないだろうと危惧します。餅は餅屋。Ai は画像診断だから、画像診断医に任せよ。


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