海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2009.08.17 2009:08:17:17:44:56

SLAPPをくらったか?

 その中身を簡略に見てみると、まず、班員と委員のメンバーで驚きます。
 死後画像有用性検討委員会20人の委嘱検討委員のメンバーに本訴訟の原告代理人、加治弁護士が、東京大学病理として名前を連ねています。東大病理の一員だったんですね、加治先生。陳述書では「加治弁護士が事前に千葉大の先生から事前情報収拾を行ったが邪推だ」としていますが、弁護士なのに東大病理として班員に名前を連ねている時点で、この推測の信憑性が高まるように思えます。弁護士として参加なら、所属を東大病理とせず法律事務所と明記するはず。深山氏の弁護士の加治氏は、かつて病理学教室で研究をしていたお弟子さん、ということです。そして弁護士として深山教授が委員をしている病理学会の委員会の委員にも名を連ねています。これって公私混同に近いのでは?

 メインの研究の内容は、東大でモバイルCTを用いて17例、Aiを実施していますが、内訳は、病理解剖6例、司法解剖10例、そして目玉のモデル事業症例はたった1例。東海大ではモバイルCT、モバイルMRIで行われ、やはり病理解剖2例、法医解剖10例という結果であり、こちらはモデル事業症例はゼロです。また分担施設での症例も、千葉大(病理解剖10例)、昭和大(病理解剖2例)、筑波メディカル(病理解剖4例、法医解剖16例)、関東中央病院(病理解剖2例)の対比研究が行われたのみで、モデル事業症例はゼロです。つまりこの班研究において、モデル事業症例はたった1例しか行われなかったことになります。
 これでは、深山氏が自ら主張する、「深山氏が主任研究官となれるワケ」が完全に崩壊してしまっています。
 委嘱した厚生労働省の観点から見てみましょう。「モデル事業に特化したAi研究をするといったから1000万円も国民の血税を用いたのに、実際にモデル事業でAiを行ったのはたった1例かよ」。これでどうして2年目の研究継続を決定したのか、一般市民としてはその甘い評価に納得できませんね。
 だから癒着があるのではないか、などと「推測」されてしまうわけです。

 さて、司法を司る裁判官に、こうした背景を理解していただいた上、厳正中立な判断を仰げればいいな、と思います。それにしても、裁判員制度ではあんなに迅速だし、一般市民にわかりやすい手法ができるのに、市民の目には見えない、こうした部分ではまだまだ閉鎖的な印象があります。だって、こんな民事裁判の判決に、一年もかかるんですよ? 裁判員制度との乖離はどう説明するのでしょう。しかもこちらの方は、同じ問題で3人の裁判官の手を煩わせている3件の裁判を併合してもらうよう申し立てても、原告の深山氏が「3件別々にする」と言い張ると、裁判官は併合させることができないというのですから。司法労力の無駄遣いだと思います。
 裁判員制度は、果たして本当に市民の視線に立った司法改革になるのか、こうして他の実状を体験し、実感してみると甚だ疑問に思わざるを得ないのです。

 最後に近況報告を。
1)最新作「外科医・須磨久善」の売れ行きは好調のようで、おかげさまで重版がかかりました。
2)秋に、これまでとは少々毛色の変わった本を出します。近々告知予定。
3)秋は講演多数。中には、大阪市大の病理学教室から招かれたものや、鉄門・東大内で開催される学会の講演もあります。事情を説明し、「いいんですか」としつこく確認したんですけど(笑)。

 この裁判さえなければ、年度内にあと二冊くらい、新作を書けたかも。裁判が一段落したら、版元さんに協力してもらい損害賠償請求でも考えましょうか(いくつかの版元さんに伺ったところ、そうした実例はあるようです)。何しろ執筆量低下の原因ですから。何より、この裁判の最大の被害者は実は私の作品を待ちわびてくれている読者の方たちだと思います。


以上

2009.08.08  海堂尊
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